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第3回 キャラ文庫小説大賞 結果発表(総評&個別講評)

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「第3回 キャラ文庫小説大賞」に応募いただいた皆様ありがとうございました。個性溢れる作品多数の中、キャラクターの魅力が際立ち、読みやすい文章で今後の成長と可能性を感じさせる作品が入賞いたしました。

【佳作】賞金10万円 担当編集決定!!
「夏の終わりに生まれ変わる」兎騎かなで

≪あらすじ≫
アメリカで両親とともにアーミッシュの信仰を持つ16歳のノア。モラトリアムとして一時的にNYで働く、兄のように慕う幼馴染みのエヴァンから「もう故郷には戻らない」と手紙が届く。故郷で一緒に生きていくと思っていたのに、一方的に関係を終わらせるなんて許せない!! 真意を確かめるため、エヴァンのもとに向かうけれど…!?

【佳作】賞金10万円 担当編集決定!!
「皇子の影に愛はいらない」米花莉衣

≪あらすじ≫
第二皇子の影武者として育てられた孤児のルル。皇子の婚約が決まり、影武者としての役目も終える。そんな矢先に皇子が何者かに毒を盛られてしまう。身代わりとして嫁ぐことになったものの、絶対バレてはいけない――!! ところが婚約者となった王子クライスに「例のものはあったか?」と訊かれたけれど、全く心当たりがなくて!?

※受賞した2作の講評はChara8月号(6/20(金)発売)に掲載しております

【総評】

 「第3回 キャラ文庫小説大賞」にご応募いただきありがとうございました。継続して応募いただいている方や2作応募の方も増え、みなさんの変わらぬ創作への熱を感じることができました。
 今回はこれまでの総評で編集部がお伝えしてきた「主人公のテーマ」や「三人称主人公視点」を意識した作品が増えたように感じました。けれど、物語を進める過程でテーマが二転三転したり、置き忘れられている、または地の文に感情描写がなく淡々としている等、キャラクターの深掘りや表現する技術が足りていない印象です。
 特にみなさんが感情描写として書いているであろう文章は、ほぼ状況描写もしくはアクション描写であることが多く見受けられました。

  例えば
  【先輩は振り返りもせずに去ってしまい、思わず唇を噛みしめた。】
  このように唇を噛みしめるというアクションだけでは、主人公が悔しいのか悲しいのか、怒っているのかがわかりません。

 地の文(文体)は漫画でいう絵柄に近いものだと思ってみてください。デビューを目指す段階では、手に取りやすい絵柄であることはとても重要です。だからといって、今持っている絵柄をすべて変えたほうがいいというわけではありません。どうやったら伝わるか、この表現でいいのか、もっと多くの読者に届けるために磨いていきましょう。

 みなさんの作品を拝読した上で、さらに意識していただきたいのは下記の通りです。過去の総評とあわせてぜひ次作の糧にしてみてください。

第1回総評 主人公の目的またはテーマを意識して書く
第2回総評 わかりやすく伝えるための『技術』とは?


①主人公の職業と性格に一貫性を持たせましょう

 これまでの総評でお伝えしている「主人公のテーマ」を意識した作品が増えましたが、その一方でテーマをうまく消化できていない作品も多く見受けられました。
 テーマというと概念や解釈が難しいかもしれません。そこで、まずは主人公の「職業」と「性格」から考えてみましょう。

  例えば
  過去受賞作 キャラ文庫『天才画家になりそこなった友へ』の主人公
  職業:中堅デザイナー
  性格:画家になる夢を諦めきれず、燻っている。管理職より個人作業のほうが好き。

  過去受賞作 キャラ文庫『オンエア終了、反省会をはじめます!』の主人公
  職業:新人アナウンサー
  性格:かつて自分を救ってくれたアナウンサーが目標。アドリブが苦手で克服したいと思っている。

 例に挙げた2作の主人公の職業と性格は、攻が不在でも成立することがわかると思います。これらから生まれる「諦めた夢ともう一度向き合うのか」「目標を叶えることができるのか」という物語の軸こそが「主人公のテーマ」なのです。
 まずは主人公の職業と性格に相関関係を出すことで、言動に一貫性が出て読者は感情移入しやすくなります。デビューを目指す段階では、主人公が何をする話なのかを明確にして作品づくりをしてみてください。


②1シーン毎に主人公の感情の変化を書く

 前回の講評で「シーンの始めには5W1H、主人公の感情の立ち位置を書く」とお伝えしましたが、1シーンを通じて、主人公の変化を書くことをもっと意識してみましょう。
 例えば恋愛シミュレーションゲームの場合、選択肢を選ぶことで、キャラクターの好感度が上がる、もしくは下がるかすると思います。
 小説も同じで、主人公の感情のパラメーターを読者に提示することを心がけてください。もちろん相手への好感度に限ったことではありません。「不安」や「怒り」など何でもいいです。前のシーンを受けて、次のシーンではどの感情のパラメーターが上がる、または下がるシーンなのか意識してみてください。

 そして今回の応募作で全体的に印象に残ったのは「1シーンが長い」ことです。読者はすべての文字を記憶できるわけではありません。1シーンの中で思いつくまま書いていては、大事な情報が埋もれ読者を置いてけぼりにしてしまいます。
 読者を迷子にしないために、1シーンの始めと終わりで主人公の感情がどう変化したのかをはっきり書きましょう。
 具体的にはファンタジーの場合、1シーン文庫フォーマット8~10Pを意識してみてください。テンポが生まれ、読みやすさが増すはずです。1シーンが短いことより、10Pを超えてきた場合は確認が必要です。本当にすべてがこのシーンで伝えるべきことなのか、削れる、または他のシーンに持っていったほうが効果的なのか、推敲しましょう。
 ぜひたくさんのキャラ文庫を読んで「1シーンのページ数」「シーンの始まりと終わりで主人公の感情がどう変化しているか」に注目してみてください。


③プロの作家を目指すのであれば、インプット量を増やしましょう

 第1回から3回まで継続して応募いただいた方や今回2作応募いただいた方の作品の内、テーマや設定、物語の展開が似通った作品がありました。プロの作家を目指している段階で同じような展開やキャラクターになるのは、無意識に書きやすい道筋をたどっているか、またはインプットの量が少ないため、バリエーションに幅がないということが考えられます。
 インプットをしないとアウトプットはできません。インプットするということは、発想やアイデアのバリエーションを増やすということです。

 例えば「この戦いが終わったら、お前に言いたいことがある」というセリフは所謂「死亡フラグ」だとみなさんわかると思います。けれど、このセリフがあった作品を咄嗟に挙げられる人は少ないはずです。過去に読んだり観たりした数多の作品から、いつの間にかみなさんの創作の引き出しに入っているのです。また、そもそもこういった作品に触れたことがない人には連想することすらできません。

 このようにインプットすればするほど、いつのまにか自分の中に血肉となって溶け込んでいきます。自分だけが思いついた、素晴らしい展開やストーリーは、すでに誰かが書いていると思ってください。好きなものだけを読んで、好きなものだけを書くのではデビュー後もプロとして続けていくことは難しいでしょう。たくさんインプットすればするだけ、書ける話は必ず増えていきます。
 まずはインプットの習慣化に取り組んでみてください。寝る前や通勤電車の中など1日30分から始めてみましょう。筋トレと同じで少しずつ読む時間と量を増やしていきましょう。そしてインプットを増やす中で、どこが面白いのかなぜ面白くないと感じるのか分析することで、創作の下地が出来上がっていくはずです。

また、この度「キャラ文庫ファンタジー小説大賞」の募集を開始いたします。詳細は新人賞ページをご確認ください。誰かの大切な一冊になるような、みなさまの力作を心よりお待ちしております。


中間選考を通過した作品の中から、応募者全員の今後の創作に役立てていただきたいという観点で22作品の講評を掲載します。
これらの講評には、応募者全員に共通してお伝えしたいポイントが含まれています。
ぜひご自身の作品を振り返りながら、次回作に活かしてください。


「第3回キャラ文庫小説大賞」個別講評

「群星の海で、またあいましょう」青木なつき

 ストーカー被害にあっている大学4年生の主人公。実は主人公と恋人同士だった前世の記憶を持つ学者の攻が、ストーカーのように主人公を見守っていた――。「前世の恋人がストーカーしてくる」という導入や設定がキャッチーで楽しく読み始めることができました。
 ただ、二人の出会いはキャッチーでしたが、その後の展開に設定が活かされていない印象です。前世の恋人を29年間探していた攻が主人公と出会って何がしたいのか、記憶を取り戻させる目的は何だったのか理由がわかりませんでした。また主人公も「臨床心理士を目指す」という行動に出ますが、前世で処刑されてしまった過去や今世で乗り越える障害には具体的な繋がりがありません。二人が記憶を取り戻すことを通じて、過去を乗り越えて成長し、恋愛面でも距離を縮めていく様子を書くことを意識してみてください。
 また、ストーカーの攻に嫌悪感を示していたはずが、攻との関わりや前世のことを知っていく過程で心動かされていく、というこの心情は、神視点に近い三人称では共感がしづらいです。読者に感情移入させるためにも、ぜひ三人称主人公視点に統一することを意識してみてください。

「もういいよ、どうもありがとうございました」甘崎禅之助

 自己肯定感の低い高校生の主人公が、クラスの人気者の受と共にお笑いの道を拓いていく――夢がある一方、現実はそううまくはいかないという展開で、読み応えがありました。
 前作・前々作よりもさらに、キャラクターを書ききろうとする熱意が伝わってきます。一方で、やはりまだキャラクターの掘り下げが弱い印象を受けました。攻は芸人を目指すと決めて実家から勘当されていますが、どんな家庭環境なのか、父親がエリート思考ということ以外伝わってきません。その父親自身も一般会社員なので、余計にエリート思考である理由がわからず感情移入しづらいです。攻はプロのお笑い芸人になり、受は父親が倒れてから会社員の道に進みましたが、それでも同居を解消していないというのも都合がいいです。
 また、受が攻と距離を置く理由が弱く、テンプレ書きのような印象を受けました。攻→受視点の二部構成は双方の感情はわかりますが、一方で展開がわからないドキドキ感が半減する恐れがあります。まずは主人公視点に統一することを意識してみてください。

「むすんでひらいておうちごっこライフ」伊藤あまね

 推しのギタリストにガチ恋する新米保育士の主人公。ある日、ギタリストが一時的に預かっている3歳の姪っ子を助けたことをきっかけに、お世話を手伝ってほしいと頼まれ同居が始まる――。同居子育てものの王道設定のためストーリー展開に無理がなく、子供のかわいらしい様子も感じられました。
 けれど前回に引き続き一人称主人公視点で、日々のほのぼのとした日常シーンの積み重ねとなっているため、大きな山場がなくクライマックスも盛り上がりに欠けていたように感じます。この書き方や展開は、前作やもう一本の応募作のファンタジーにも共通していたのが気になります。
 また同居子育てがメインになり、攻のバンドのライブや練習シーンなど、音楽に携わる場面がほぼ出てきませんでした。主人公が保育士という理由は姪っ子を一緒に世話する理由に繋がっていましたが、攻がギタリストという職業である意味があまり感じられません。「推し」「指フェチ」「バンドマン」というキャッチーな設定・職業を入れるのであれば、それを活かしたストーリーを考えてみてください。

「燈色薬師の二度目の結婚」稲村ヨジ

 元皇帝の妃で薬草の研究者の青年が、自分を救ってくれた公爵の呪いを解くために奮闘するファンタジー。読みやすい文章で、主人公が生き生きと描かれているのが印象に残りました。ただ、ファンタジー設定なのに情景描写が少なく、会話とエピソードでストーリーが進んでいくので、読者に物語がリアルに伝わりにくいように思われます。
 そして、プロローグで濡れ場から始まり次にそこに至る回想という流れですが、これは漫画の導入ではよくある手法ですが、小説ではいきなりキャラクターもわからないまま物語が始まってしまい、読者が置いていかれる印象です。まずは導入部で、世界観・主人公のキャラクター・物語のテーマをきちんと入れると、読者が物語の世界に入りやすいです。
 さらに、主人公がただ公爵に殺されたくないというだけで特に目的やテーマがないように思えます。恋愛面も大切ですが、それ以外のテーマもしっかりと描いてほしいです。例えば、主人公しか持っていない能力を使って人々を救いたいなどの目的を持たせて、主人公の成長や着地点を決められれば、さらに物語が盛り上げられるのではないかと思います。

「僕がしたいことは先生を、」緒川ゆい

 両親を亡くし、中学生の弟を育てるため大学を中退してライターになった攻。生活に追われる中、弟の担任として現れたのは、高校時代想いを寄せていた元予備校講師だった――。4年ぶりの再会に、憶病ながらも手を伸ばす切ない両片想いに胸を打たれました。丁寧な心情描写と主人公視点に統一された柔らかい文章も作品とマッチしています。
 しかし前作同様攻視点で、主人公にテーマがないのが気になります。物語に大きな破綻はありませんが、ひとつひとつのエピソードがオチをつけるための都合のいい装置でしかなく、目新しさのない予定調和な印象を受けました。
 特にクライマックス、受が作家となった元教え子とサイン会で再会するシーン。主人公である攻はどこにいて何をしていますか? 何を感じていますか? 物語を傍観して受の様子を描写する、カメラを回すだけの立場になっていませんか? 主人公不在のまま受が救済されており、読み応えが弱く感じられました。主人公と関係ないところに物語の山場がある展開は、共感しづらく読者は読後の満足感を感じられません。この主人公だからこそ生まれるドラマ=葛藤とは何かをもっと徹底的に考えてください。次作ではぜひ受を主人公にした、引き込まれる物語をつくってみてください。

「君は僕の輝ける星」久々宮真名

 芸能マネージャーと子役出身の中堅俳優の幼なじみもの。二人は恋人同士だけど、受には攻に言えない不安があって……!? 読みやすい文体で三人称主人公視点を意識しているのが伝わってきました。
 一方で、構成が恋人同士の状態で始まり、過去の出会いから告白を振り返るのでお話が進んでいるようで進んでいません。攻は本当は自分のマネージャーではなく他のことをやりたかったのでは、と忖度して「マネージャーをやめてほしい」と言ってみたり、王道な展開だけに意外性もなくカタルシスが弱いです。
 また、主人公が俳優としてどうなりたい、などの展望がないため、俳優という職業の面白さが活かされておらずもったいないです。主演の仕事がほしいと思いつつも恋愛ものは避けたり、自ら行動を起こしてオーディションを受けたりしていないので主人公の本気度が伝わりません。主人公の願いである「攻のいちばんになりたい」というものがどういうことを指しているのか、具体性がなく曖昧な印象を受けます。まずは作品のテーマをはっきりさせることで、キャラクターとお話の構成もおのずと決まってくるかと思います。

「野良猫は夜明けに眠る」久保木りつ

 男娼として働くスナネコ獣人の主人公の周囲で起こった連続殺人事件。被害者の特徴は主人公と一致し、しかも全員が国の英雄と関係を持っていた――。事件の解決という大きな縦軸とともに、最初は犬猿の仲だった受と攻が次第に恋に落ちていく展開に引き込まれました。
 ただ序盤から掲げてあった「孤独を癒すために自分だけの家がほしい」という主人公の目的がどうなるのか、お話の最初と最後で変化が感じられませんでした。攻と恋する過程で「家(空間)がほしい」のではなく「自分を受け入れてくれる人がほしかった」と気づいたり、家を手に入れた後のさらなる生きる目標を見つけたりしないと、読者はカタルシスを得られません。恋愛感情以外に変化がないと、主人公が起こる出来事に振り回されるだけでお話が進んでしまいます。「家を手に入れる」というのは単なる手段であり、通過点です。その後主人公がどうなりたいと思っているのか。過去の応募作とも共通する心情描写の弱さにも繋がりますが、もっとキャラクターについて掘り下げ、どういう目的意識を持っているのか考えてみましょう。
 また、神視点寄りの硬い文体のままでは読者は主人公に感情移入できません。もっと一人称寄りの視点を意識してみてください。

「Casting Couch の憂鬱」幸里

 上司に枕営業をしてでもセレクトショップの店長の座に就きたい。それなのに、引き抜きでやってきた男があっさり奪っていってしまった――主人公が仕事をしている姿やその業種ならではの会話のやり取りなど、お仕事ものを書こうとした努力がきちんと作品に反映されていました。ただ、蘊蓄が長すぎるようにも感じたので、もっとバランスを意識してみましょう。
 肝心の恋愛の部分は起こる出来事に緩急がなく、メリハリが弱いです。当て馬の上司に絡まれることでしか二人の恋愛が進展せず、同じ展開が続くように思えてしまいます。 序盤は好感度の低い主人公なだけに、共感されやすい主人公の心情と、明確なテーマをきちんと設定しないと、このお話の続きを読み進めたいとは読者は思えません。また、恋愛を通して主人公のテーマが成就するのか、それもしっかり書きましょう。
 受視点の物語ではありますが、攻が受のどこを好きになったのかが見えてきませんでした。上記のテーマの設定とともにそれぞれのキャラクターを深掘りし、こういうキャラクターだから受を好きになったという説得力が出るように意識してみてください。

「冬に眠る、春を想う」栄つかさ

 母親からの虐待でトラウマを抱えた民族学者が、生贄として育った青年と出会い、初めて本当の愛を知る物語。主人公視点でストーリーが進み、読みやすい文章でした。ただ、マナ族の特殊な言語を主人公が話せることや生贄の青年が民族の中でただ一人金髪であるという重要な設定が地の文でさらっと語られ印象に残りにくく感じました。地の文で長々と説明するのではなく、エピソードにしっかり情報を組み込んで読者に印象付けないと、せっかくの設定が活かせません。
 メインの生贄設定も、生贄を捧げないと悪いことが起こるらしいというふんわりとした理由だけで具体的なエピソードもないので、現代まで儀式を固く守り続けていることの説得力が薄いように感じます。その上、主人公が生贄は文化だから仕方がないと諦め続け、最後は友人の言葉に押されて助けに動いているので、愛する人を助けたいという強い想いや成長が感じられず、読者の共感を得にくいと思います。
 生贄文化というユニークなアイデアをしっかりと練って、主人公がトラウマを乗り越え愛する人を命がけで救う――そんなテーマをドラマティックに描くことで、もっと読者の心を掴めるのではないかと思います。

「ベスト・アンサー」雫川サラ

 感情を匂いとして感知する「嗅覚能力者」である警察官の主人公。自ら制御することはできないが、実は相手の感情を操る「魅了」の能力も有していた。ある日、民間警備会社の敏腕エージェントであり「耐毒体質者」の攻と、薬の密売事件で協力することになり……!? 特殊能力によって感情の匂いがわかり、相手を操るという主人公の設定のアイデアが目新しくて面白かったです。
 一方で、特殊能力者がいるという世界観や主人公の年齢などの説明がないまま進んでしまうため、状況を把握するのに苦労しました。前回の総評であった、シーンの始めに5W1H(いつ・どこで・誰が・何を・なぜ・どうやって)を書くことをもっと意識してみてください。そうすることでより読者が物語に入り込みやすくなると思います。
 また前回の個別講評でもお伝えしましたが、まだ地の文が多く全体的に硬い印象を受けます。攻への想いを自覚する過程も地の文で書かれているので、いつの間にか恋に落ちていたように見えます。感情が大きく変化する重要なシーンは、ぜひエピソードで見せてください。事件についても同様に地の文での説明が多く、犯人の拠点への突入シーンや、そこでの戦闘シーンでも緊迫感や臨場感がまったく伝わってきません。ぜひたくさんのキャラ文庫を読んで地の文の量を分析してください。

「さよなら、テイクオーバーゾーン」すぐり

 オリンピックで金メダルを目指す陸上選手の受と、大企業御曹司でアルファの執着攻。過去に攻と発情事故を起こしてオメガになってしまった受が、攻の罪悪感を利用して抑制剤の代わりに関係を求める――。王道のオメガバース展開に一気に引き込まれました。
 一方で、三人称神視点で主人公に感情移入しづらい印象を受けました。さらに章ごとに視点が変わる構成は、キャラの区別化ができていないため、別視点で何度も同じエピソードが繰り返されるので冗長に感じます。
 例えば、発情事故についての描写は、設定や状況の説明が重複するばかりで、主人公の気持ちが見えません。まずは視点を主人公に統一することを意識してみましょう。そうすれば、オメガであることの苦悩や、攻への罪悪感と恋心の狭間で葛藤する想いなど、心情描写にもっと深みが増すはずです。主人公がこの物語を通してどのように変化する姿を描きたいか、情報を整理してエピソードやキャラクターの取捨選択から始めてみてください。

「神使様は配信者」相田翆

 子役だった過去を隠しゲーム配信をしているけれど、収益化は夢のまた夢――そんな主人公が一緒に活動をすることになった人気配信者は、実は幼い頃に助けた少年で、その正体は妖を祓う白蛇だった!? 前作よりさらに三人称主人公視点が意識されていて、オリジナリティのある展開に引き込まれました。
 これまでとは違う現代ファンタジーに挑戦した点もよかったですが、かえって共感性が低くなった印象です。酒癖が悪く主人公を殴る母親の元に弟一人を置いてあっさり家を出たり、弟もそれをすんなり受け入れる寛容さがあったりと、都合がよく思えてしまいます。ファンタジーなら許せる設定も、現代が舞台では通用しません。
 主人公の目的意識は前回から引き続き弱いです。「人気配信者になる話」なのか、「過去を乗り越え新たにやりたいことを見つける話」なのか、今回は特に主人公がどうなりたいのかが曖昧でした。起こる出来事に振り回されていただけの印象だったので、主人公のバックボーンを踏まえ何を目指しているキャラクターなのか、もっと深掘りしてみてください。
 また、これまでの3作共通してラブシーンがなかったので、次回はラブシーンにも挑戦してみましょう。

「きみとは頑張らない」南城アリス

 亡くなった母の身代わりとして父に抱かれる特別生の受と、生徒会副会長で寮監の先輩攻。思春期特有の透明感のあるキャラクターが、繊細な筆致で描かれており読み応えがありました。応募作2作それぞれ、異なるジャンルに挑戦する姿勢にも好感がもてます。
 しかし、全体的に主人公が状況に流されるだけでテーマが不在です。攻との距離を縮めていくエピソードも、万引き犯にされかけたところを庇われて……と、状況に対する反応でしかなく、もう少し本人同士が向き合った結果の恋、という納得感がほしかったです。
 クライマックスでは、父の秘書に犯されていた過去が明かされますが、攻との間に軋轢を生むための都合のいい展開に感じられました。さらに、父親にレイプされそうになったところを攻が救いにくる流れは、直接的な問題の解決になっておらず、ありきたりでその場しのぎな印象を受けます。「どこにも居場所がない」と感じていた主人公がどうすれば救われるのか、あらためて物語の軸を再考してみてください。

「Gペンと恋」野中にんぎょ

 同じ漫画賞を受賞しながらも、アシスタント止まりの主人公と、人気漫画家として活躍する攻。ひょんなきっかけから攻のアシスタントに入ることになり――という導入には王道ながら引き込まれました。攻に抱く、憧れと嫉妬が入り混じるヒリヒリした感情には共感しやすく、漫画を描いていく描写も丁寧でした。
 一方で、作中の漫画の設定や投稿作へのアドバイスがかなり具体的だったのに対し、恋愛シーンでのキャラぶれしたようなセリフの応酬に違和感がありました。また、「アシスタント生活だった主人公が、売れっ子漫画家になれるか」という大きなテーマがあるにも拘わらず、後半で「攻が水墨画をやるかどうか」というテーマが出現し、成り上がり的な変化を楽しむ部分の夾雑物になってしまっています。受と攻、どちらにも複雑な設定や背景が必要なわけではありません。最後の最後で主人公が攻の脇役になってしまわないように、「この物語に本当に必要なテーマは何か」を軸に、たくさん本を読んだりインプットを重ねて構成を練ってみてください。

「鎖骨先生は解釈ちがい」林り香

 人気BL漫画の世界に転移してしまったと思ったら、世界観もキャラも違っていて……!? という、王道の異世界転移ものかと思いきや、実は創作された架空の物語ではなく、その作品を描いた作家自身が過去に訪れていた“実在の世界”だった――というメタ的な仕掛けが、斬新で大変面白かったです。
 設定自体には勢いと面白みがあり、オリジナリティを感じました。一方で、地の文が非常に多い一人称で、登場人物の説明や感情描写が不足しているため、読者が状況を把握しづらく、物語への没入が難しい印象も受けました。
 また、「原作との差異を楽しむ」構造になっておらず、異世界ものとしての面白みが活かしきれていません。そもそも小説を書き慣れていない印象を受けましたので、まずはキャラクターの心の動きや背景を丁寧に描くこと、読者が自然と物語に入り込めるよう、シーンや展開を整理してみましょう。設定の強さは武器なので、読者と情報を共有する意識を持ちつつ、短くてもいいので“ひとつの感情”に絞ったお話をとにかくたくさん書く!、そして、たくさん読むことを頑張ってみてください。

「子育て魔王の初恋~ベビーシッターは勇者様?~」藤龍河

 母親に押し付けられた弟たちの世話と、魔王としての政務に追われる主人公。そんな彼に手を差し伸べたのは、魔王討伐に敗れた勇者で……!? という、立場のねじれとキャラ同士のコミカルな掛け合いが楽しいほのぼのファンタジー。まだまだ硬い神視点ではあるものの、前作より読みやすい文章を書こうと意識されている印象でした。
 ただ、「魔王と勇者」「子育て」といった魅力的な要素が十分に物語に活きておらず、設定止まりになってしまっている点が惜しいところ。魔王ならではの葛藤や、人間との対立構造も薄味で、勇者との恋愛もキャラクターの個性に基づく深まりが乏しい印象です。
 弟たちの存在も物語に大きく関わるわけではなく、子育てというテーマを掲げるにはやや説得力に欠けます。登場人物たちは魅力的ですが、それぞれの役割が物語にどう寄与するのか、もっと踏み込んで描かれていればグッと引き込まれたと思います。設定に頼るのではなく、「この世界・関係性でしか描けないドラマ」を意識して構成を組み立ててみてください。芯の通った物語になれば、キャラクターの魅力もさらに際立つはずです。

「〝運命〟じゃない僕らの運命」藤多

 オメガの主人公とベータの攻は、幼なじみで恋人同士。だけどいくら愛し合っていても、オメガとベータでは運命の番にはなれなくて……!? 三人称受視点に統一されていて文章も読みやすく、キャラクターの感情も伝わってきました。
 ですが、幼なじみで最初から恋人同士でベータ×オメガの設定だと、どうしても先の展開は読めてしまいます。オメガバース特有のアクシデント以外でメインになるストーリーがないので、他の同じ設定の作品との差別化が難しいです。
 また、大学生というのはモラトリアムでキャラクターにテーマを持たせにくい年齢でもあります。自由度があるとも言えますが、そのぶん主人公が物語を通して最終的にどうなりたいのか、核になるテーマが必要です。設定に寄りかかった物語作りのままでは、盛り上がりや起承転結のあるお話は書けません。
 さらに全体的に一文が長く、エピローグ部分で友人との会話に雑誌フォーマットの1P以上を割くなど、余計な会話や物語の締めと余韻に必要のないものも多かったので、本当に必要な文章かどうかを推敲してみてください。

「隣の塩むすび」みこ

 父親が再婚したことで家族に馴染めず、一人暮らしを始めた高校2年生の主人公。初めての一人暮らしで何もわからない主人公を、アパートのお隣さんである社会人の攻が優しく手助けしてくれる。その攻は、実は主人公が幼い頃に亡くなった兄の親友で……!? 三人称主人公視点に近い文章のため、キャラクターに共感しやすく読みやすかったです。
 けれど「お隣さんは亡くなった兄の親友だった」というオチひとつで構成されているため、展開が読めてしまいあっけない結末に感じます。攻の正体がわかった際に、「全部わかって優しくしてくれていたのか」とショックを受けることもなく、事実を素直に受け入れてしまったことも気になります。そこから攻との関係に葛藤したり、いまだに兄の死に後悔と自責の念に駆られる攻を救ってあげたりと、攻と一緒に兄の死を乗り越えハッピーエンドに至ることでもっと盛り上がったはずです。
 また、これだけシンプルな設定にも拘わらず、主人公が恋愛感情を自覚したところで終わるため、物足りない読後感です。読者が読み終わった後にどう感じるのかを考え、満足度の高い構成・展開になるように意識してみてください。

「孤独な王子は部族の青年の献身で愛を知る」緑虫

 王子である主人公が人質兼政略結婚のために帝国へ向かう途中、海に落ちて消息を絶ち、異国の部族に助けられる――という、王道ファンタジーを踏まえた溺愛ストーリー。助けた青年が皇帝ではなくその弟だったという種明かしには意外性がありました。
 「不遇な受が攻に見初められ愛される」構図は定番ゆえに根強い人気があり、一定層には刺さるかもしれません。ですが、言い換えれば「どこかで読んだ」印象が強く、キャラクターの個性や関係性の説得力に乏しいのが難点です。特に、神視点の硬い地の文で、感情や物語の温度が十分に伝わってきません。
 攻が受を拾ったところから物語が始まる=最初からある程度の好意があるうえ、主人公が受動的なまま進むため、恋愛成就のカタルシス感が弱く、終始予定調和の一本道になってしまっています。今後は、展開に合わせてキャラクターがどう揺れ動き、変化していくか――感情のグラデーションを丁寧に描くことを意識して構成を練ってみてください。それができれば、物語に一層深みが増していくはずです。

「僕たちは運命が怖い」水無月にいち

 アルファの両親の元に生まれたハイスペックな攻と、家族全員ベータで平凡な日常を送る受。ところが、ずっとベータだったはずの受が成長とともにオメガに変異してしまい……!? オメガバース+幼なじみもので、視点も統一されていて、文章も読みやすかったです。
 ただエピソードというよりは、小学生~大学生までの二人+当て馬を時系列に沿って書いているだけで、物語の核がどこにあたるのかがわかりませんでした。キャラクターの心情も伝わってはきたのですが、恋愛面での葛藤がオメガバース要素しかないので、この設定を抜いた時に核となる恋愛のエピソードが弱く、もったいないです。
 また小学1年生の出会いからスタートするものの、セリフや文体が子供の視点になっていないので、その後の成長過程で中学高校となっても二人の台詞回しにほぼ変化がなく、大人びたしゃべりの小学生に違和感がありました。主人公視点にするということは、そのキャラクターの年齢によって使う語彙や心情に影響を与えることもテクニックとして必要なので、意識してみてください。

「アンノウン・グレー」村井夕夏

 聴覚過敏により大学で浮いてしまい、ドロップアウトしてしまった主人公。不時着した宇宙人を母星に帰すためにロケットを作ろうとし、その中で人との関わりを持つことをもう一度頑張ろうとする。インパクトのある設定と、主人公の成長を書こうとしていることが伝わってきました。
 攻が鈍色の肌だったりテレパシーで会話したりと面白くはあったのですが、特に宇宙人らしい内面的な特徴や異文化交流がなかったので、今のままでは見た目以外は単なる外国人に近く、宇宙人であるということが活かせていません。また、唯一の帰る手段である大事な宇宙船を見張りもせずに放置して服を買いに行くなど、行き当たりばったりで都合のいいエピソードが目立ちました。
 前作の講評で「1シーンが短く説明不足」という指摘を受けたところを改善しようとする部分はとても見えたのですが、逆に冗長になってしまっています。長ければいいというわけではなく、必要な文章を必要なところに適切な分量で入れられるようになるといいと思います。

「空の端でひとりぼっち」森洲くるりん

 ワルキューレとして戦士の魂を導きたい――そのために奔走するも、男ゆえに拒絶され続けている主人公。唯一魂をくれると約束してくれた攻を見守るうちに惹かれ、触れ合いに夢中になっていく。同時に、「生きていてほしい」と思うようになり―――。
 「男なのにワルキューレ」という設定の着想自体は面白く、目新しさを感じました。一方で、設定がすべてになってしまっている部分もあります。この話において核となるのは、前半にある「戦士の魂を導きたい(=誰かの死を無意識に願っている、または何とも思っていない)」という目標への使命感と、後半に抱く「攻に生きていてほしい」という感情との折り合いをつける“過程”ではないでしょうか。命の概念が薄い主人公が人間と同じ痛みを知り、そのうえで攻に対する思いを変化させていかないと意味がありません。今作ではそこが描かれていないため、読後のカタルシスが薄くなってしまっています。
 また、最終的に攻を天上に連れてきても、地上での逢瀬と差異がなく、どこに向かう話なのかが不明瞭です。特殊な設定や世界観ならば、主人公の目標をもっとわかりやすいものにし、読者の共感性を意識してみてください。

※公平を期するため、第3回キャラ文庫小説大賞選考に関する問い合わせには一切応じられませんのでご了承ください。

受賞者続々デビュー!!

「第1回 キャラ文庫小説大賞」受賞3作 文庫化!!
大賞「監禁された朝、僕は親友を失った」鳴海しずく イラスト:yoco
優秀賞「天才画家になりそこなった友へ」七緒夕日 イラスト:笠井あゆみ
期待賞「オンエア終了、反省会をはじめます!」芹沢まの イラスト:みずかねりょう

「第2回 キャラ文庫小説大賞」佳作受賞作 雑誌『小説Chara vol.52』掲載!!
佳作「特別な君と普通の恋」野宮まち イラスト:夏江夢子

「第3回 キャラ文庫小説大賞」期待賞作品の受賞取り消しのお知らせ

更新

この度「第3回 キャラ文庫小説大賞」にて期待賞を受賞しておりました作品『ブルーでチェリーなマスカルポーネ』につきまして、当該作品の受賞を2025年6月24日付で取り消すことを決定いたしました。

著者本人より規定に関する申し出があり、編集部と改めて確認を行った結果、応募規定「(8) 他社を含む過去応募歴のある作品の改稿作は、選考対象外とさせていただきます」に反する点が判明いたしました。

本件において、審査の過程で確認できなかった点について、著者本人をはじめ応募していただいた皆様にご心配ならびにご迷惑をおかけしましたこと、心よりお詫び申し上げます。

「キャラ文庫小説大賞」ではすべての応募者の方々に対して平等かつ誠実な審査を行うことを大切にしております。今後は運営体制の改善と見直しを行い、より安心してご参加いただける環境づくりに努めてまいりますので、今後とも「キャラ文庫小説大賞」をよろしくお願いいたします。

※尚、期待賞受賞取り消しによる、繰り上げ受賞はございません

「第3回 キャラ文庫小説大賞」結果発表

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「第3回 キャラ文庫小説大賞」に応募いただいた皆様ありがとうございました。個性溢れる作品多数の中、キャラクターの魅力が際立ち、読みやすい文章で今後の成長と可能性を感じさせる作品が入賞いたしました。

【佳作】賞金10万円 担当編集決定!!
夏の終わりに生まれ変わる兎騎かなで
≪あらすじ≫
アメリカで両親とともにアーミッシュの信仰を持つ16歳のノア。モラトリアムとして一時的にNYで働く、兄のように慕う幼馴染みのエヴァンから「もう故郷には戻らない」と手紙が届く。故郷で一緒に生きていくと思っていたのに、一方的に関係を終わらせるなんて許せない!! 真意を確かめるため、エヴァンのもとに向かうけれど…!?

【佳作】賞金10万円 担当編集決定!!
皇子の影に愛はいらない米花莉衣
≪あらすじ≫
第二皇子の影武者として育てられた孤児のルル。皇子の婚約が決まり、影武者としての役目も終える。そんな矢先に皇子が何者かに毒を盛られてしまう。身代わりとして嫁ぐことになったものの、絶対バレてはいけない――!! ところが婚約者となった王子クライスに「例のものはあったか?」と訊かれたけれど、全く心当たりがなくて!?

※受賞した作品の講評はChara8月号(6/20(金)発売)に掲載しております
※期待賞を受賞しておりました作品につきまして、応募規定に反する点が判明したため、2025年6月24日付で受賞の取り消しを行いました。

第3回 キャラ文庫小説大賞」の総評と受賞外の一部作品の講評は、7/1(火)にChara公式サイトにて掲載いたします。

次回「キャラ文庫小説大賞」開催決定!!

好評につき「キャラ文庫小説大賞」を今年も開催いたします。
募集内容や規定などの詳細は7/1(火)にChara公式サイトにて掲載!! 誰かの大切な一冊になるような、みなさまの力作を心よりお待ちしております。

受賞者続々デビュー!!

「第1回 キャラ文庫小説大賞」受賞3作 文庫化!!
大賞「監禁された朝、僕は親友を失った」鳴海しずく イラスト:yoco
優秀賞「天才画家になりそこなった友へ」七緒夕日 イラスト:笠井あゆみ
期待賞「オンエア終了、反省会をはじめます!」芹沢まの イラスト:みずかねりょう

「第2回 キャラ文庫小説大賞」佳作受賞作 雑誌『小説Chara vol.52』掲載!!
佳作「特別な君と普通の恋」野宮まち イラスト:夏江夢子

※公平を期するため、第3回キャラ文庫小説大賞選考に関する問い合わせには一切応じられませんのでご了承ください。

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久我有加先生 逝去のお知らせ

お知らせ

小説家の久我有加先生が、2025年4月24日にご病気のため逝去されました。
心よりご冥福をお祈り申し上げます。

久我先生は2019年にキャラ文庫より「寮生諸君!」を上梓され、その後、「獲物を狩るは赤い瞳」「満月に降臨する美男」「新入生諸君!」「彼岸花は僕だけにささやく」と、大正ロマンから近未来SFやホラーなど、多岐にわたる内容の秀作をご執筆いただきました。

時代設定や物語の世界をリアルに丁寧に描写され、夢を追い求める主人公や愛する人を守る凛とした青年など魅力的なキャラクターを生み出し、多くの読者の皆様に愛される作品を生み出していただきました。

そして、2023年の小説Chara vol.49掲載の「いずれ恋人になる予定です」が最後の作品となりました。
もっと多くの先生の作品を皆様にお届けできないことが、本当に悔やまれてなりません。

読者の皆様には、これからも久我先生が残してくださった物語を愛していただき、末永く読み続けていただけますよう、心より願っております。

なお御葬儀はご家族にて執り行われましたため、お手紙や御供物や贈り物等はご遠慮いただきますようお願い申し上げます。

久我有加先生の生前の多大なご功績に敬意と感謝を表し、謹んでご冥福をお祈り申し上げます。


 株式会社徳間書店 Chara編集部一同

第3回キャラ文庫小説大賞 中間発表

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「第3回 キャラ文庫小説大賞」の中間選考が終了し、最終選考に進む作品が決定しました。たくさんのご応募、ありがとうございました。

厳正な審査の結果、最終選考の候補となったのは以下の51作品です。(※敬称略・50音順)

また、この中から有望な方には、
★担当編集者がつき、次回作をバックアップします。
★編集部から個別に講評をお返しします。

ペンネームタイトル
青木なつき群星の海で、またあいましょう
甘崎禅之助もういいよ、どうもありがとうございました
雨宮里玖あなたが教えてくれたこと
伊藤あまねむすんでひらいておうちごっこライフ
稲村ヨジ燈色薬師の二度目の結婚
兎木日名子水没都市の発掘師と不老の仲買人
海月透路地裏、偏愛、ネオンテトラ。
梅原うさぎ鏡の中のラプンツェル
及川奈津生Best wishes to you on your birthday
緒川ゆい僕がしたいことは先生を、
鹿島桜赤い糸は階を超えて
川井寧子転落オメガのゆららか愛されスローライフ
清瀬いとギムレットには早すぎる
久々宮真名君は僕の輝ける星
久保木りつ野良猫は夜明けに眠る
幸里Casting Couch の憂鬱
小夏結花傷ついてもいいよ
駒倉灯蟻と蟋蟀
栄つかさ冬に眠る、春を想う
桜ノ肇海の者
清田あお仮契約の王子(アルファ)様
雫川サラベスト・アンサー
すぐりさよなら、テイクオーバーゾーン
相田翆神使様は配信者
口下手な色彩
紬木莉音愛も心臓もくれてやる
teoきつねの王子様
兎騎かなで夏の終わりに生まれ変わる
常世かくりブルーでチェリーなマスカルポーネ
中島焔ぼくらが愛を伝えるには
なつきはる。そうして、それが恋だと気づく
夏田おねベターデイズ
野中にんぎょGペンと恋
灰島なつめ幾万字の果てであなたに触れたい
はなぶさ俺の罪
林り香鎖骨先生は解釈ちがい
藤多〝運命〟じゃない僕らの運命
藤丸まる気まぐれ天使、ざまぁみろ
藤吉めぐみ傷心ドラッグと初恋クランケの純愛処方箋
藤龍河子育て魔王の初恋~ベビーシッターは勇者様?~
米花莉衣皇子の影に愛はいらない
星星巡一目で恋に落ちたのだと、あの日君は言ったのに
真山密輸堕天使でペテン師
三尾一加月森の卵
みこ隣の塩むすび
緑虫孤独な王子は部族の青年の献身で愛を知る
南城アリスきみとは頑張らない
水無月にいち僕たちは運命が怖い
村井夕夏アンノウン・グレー
森洲くるりんオフィスラブアレルギー
森洲くるりん空の端でひとりぼっち

最終選考結果は、「Chara8月号」(6/20(金)発売)ならびに公式サイトにて発表いたします。
大賞作品は書籍化or雑誌掲載検討!
引き続き、ご注目ください。

※公平を期するため、選考に関する問い合わせには一切応じられませんのでご了承ください。


▼第2回キャラ文庫小説大賞、最終結果ならびに総評はこちら


【NEWS】第2回キャラ文庫小説大賞≪佳作≫
野宮まち「特別な君と普通の恋」
『小説Chara vol.52』(5/22(木)発売)掲載決定!!

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「凪良ゆう作品集」連続刊行スタート!!

トピックス

小説家・凪良ゆうの初期BL作品20作超を新装版として復刊!! 「凪良ゆう作品集」シリーズ、2025年より発売開始!!

未完成

第1弾「未完成」


著者:凪良ゆう
イラスト:北野 仁


定価:770円
発売日:2025/01/28
ISBNコード:4-19-901153-5

自分を制御する術を知らない高校生と、分別ある大人でありたい教師のほろ苦く切ない恋――単行本未収録の掌編を加えた新装版で登場‼



未完成

第2弾「薔薇色じゃない」


著者:凪良ゆう
イラスト:円陣闇丸


定価:748円
発売日:2025/03/27
ISBNコード:4-19-901161-0

「凪良ゆう作品集」シリーズ新装版第2弾!! すれ違いから別れた恋人の、切ない大人な恋――



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英田サキ先生 逝去のお知らせ

お知らせ

小説家の英田サキ先生が、2024年8月27日の朝にご病気のため逝去されました。
心よりご冥福をお祈り申し上げます。

英田先生は2004年に単行本デビューされ、2006年にキャラ文庫より「DEADLOCK」を上梓されました。以来、現在まで続く大人気シリーズ「DEADLOCK」を始め、コミカライズやアンソロジーなども含め約30冊の書籍をご執筆いただきました。

最後にいただいた原稿は、7月のバースデーフェア用「DEADLOCK」番外編でした。打ち合わせでは、この秋発売の『小説Chara』で番外編を書きたいとおっしゃっていて、ユウトとディックたち、DEADLOCKワールドの人物たちのこれからについても展望をうかがっておりました。どんな作品を書いても、英田先生の物語には骨太な世界観と緻密な構成、魅力的なキャラクターたちが常に生き生きと躍動していました。これからも生み出されるはずだった、そんな物語を読者の皆様にお届けできないことが、残念で、また無念でなりません。

読者の皆様には、これからも英田先生が生み出された物語とそのキャラクターたちを愛し、末永く作品を読み続けていただけますよう心より願っております。

なお御葬儀はご家族にて執り行われましたため、お手紙以外の御供物や贈り物等はご遠慮いただきますようお願い申し上げます。

英田サキ先生の生前の多大なご功績に敬意と感謝を表し、謹んでご冥福をお祈り申し上げます。


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第3回 キャラ文庫小説大賞 質問回答 

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「第2回 キャラ文庫小説大賞」結果発表後に募集した、「第3回 キャラ文庫小説大賞」に関する疑問・お悩みにご回答いただいたみなさんありがとうございました。たくさんの質問をお寄せいただいた中から、みなさんの関心が高く重複していた7つの質問について回答いたします。Q&Aをぜひじっくり読んで、みなさんの「第3回 キャラ文庫小説大賞」の応募にお役立てください!! たくさんのご応募お待ちしております!

※尚、質問内容の意図を損なわない程度に、編集部にて一部文章を調整しております旨ご了承ください。

▼第2回 キャラ文庫小説大賞、最終結果はこちら

Q1. 『世界観、キャラ、文章、全てにおいて詰めが甘い。だからデビューできない』と言われたことが複数回あります(他社の講評、プロ作家など)。よろしければ、その対策についてご教授ください。(PN:しの)
A1. 『全てにおいて詰めが甘い』とはおそらく「最後までなんとなく読めるけれど、読者の印象に残らない作品」になっているのかもしれません。物語の読後感が「面白かった!」という満足感ではなく、世界観や設定、キャラクターなどの好感度や共感度が、読者の好み頼りになっている可能性があるなら、たとえデビューできたとしてもプロとして続けていくことは難しいでしょう。

 まずは「第2回」の総評でお伝えした3つの点を踏まえて、読者に感情移入させるために、主人公を中心にした物語づくりを意識してください。
 そして次に考えてみていただきたいのは「もし誰かに自分の作品を紹介するとしたら、どんなふうに説明するか」です。物語の導入でもキャラクターの関係性でもかまいません。

例えば、
 ・姉王女の身代わりに隣国に嫁ぐ王子。バレたら殺される、と悲愴な覚悟で婚礼の夜を迎えるけれど……キャラ文庫「花降る王子の婚礼」
 ・弱冠24歳のCEOがいる、平均年齢20代半ばの若い会社に、なぜか営業一筋の34歳の主人公が採用されてしまった!!キャラ文庫「社長、会議に出てください!」
 ・大人気ソシャゲの最推しキャラが、現代世界に生身となって転生してきた!?キャラ文庫「推しが現実(リアル)にやってきた」

など、ほんの一言で「読みたい」「面白そう」と思わせることができそうですか? そして物語の中心にちゃんと主人公はいますか? 主人公=読者です。読者を意識した掴みを意識すればデビューに近づくと思います。
Q2. キャラクターを考えるのにとにかく時間がかかります。「明るくて前向き」というキャラクターならば、なぜそのような性格になったのか、生まれや家庭環境は……と半生を遡って考える(設定する)のですが、せっかく細かいところまで考えても、キャラクターがいきいき動いていく手応えがありません。そもそもこういう考え方でいいのか分からず、悩んでいます。 (PN:ハムチーズ)
A2. 創作に正解はありませんが、質問内容を見る限り手応えがないとのことで、ハムチーズさんにとってはあまり良い方法とは言えないかと思います。
おそらくキャラクター単体の設定から作りはじめようとしていませんか? その場合、掘り下げる段階が早すぎるのかもしれません。考えた設定をすべて物語に落とし込もうとしてしまった結果、必要のないエピソードが入り不自由さが生まれているのではないでしょうか。

まずは、主人公の基本的な性格をはじめに「3つ」程度決める。基本的な性格以外は、実は対人関係の相手によって生まれてくる「反応」です。そしてそれが一番キャラクターを差別化させるキモなのです。

例えば「自分よりも上の立場の人に理不尽なことを言われたら言い返す(気が強い)」性格の主人公とします。その舞台が現代社会で、相手が上司の場合、状況によっては周囲から敬遠されたり、空気が読めないと後ろ指をさされるかもしれません。また、ファンタジー世界の場合、貴族に物申す正義感のある平民の代表として頼りにされるかもしれません。同じ性格や反応でも、立場や世界観によって読者の印象は大きく変わります。
そのため、主人公の半生を細かく設定することから始めるよりも、基本の性格を絞った上で、主人公がどの世界で何を目的に行動するのか、物語自体の方向性を決めてみましょう。
Q3. 「第1回」「第2回」ともに現代ものが受賞していると思うのですが、ファンタジーよりも現代ものを求めているのでしょうか。 (PN:麦畑)
A3. キャラ文庫が求めているのは「主人公が恋愛を通し葛藤して成長する、物語としての面白さ」です。もし「現代もののほうが受賞しやすい」と認識していらっしゃるようでしたら、それは大きな誤りです。
人によっては、ファンタジーと違って世界観や設定がないぶん現代もののほうが書きやすいと思われるかもしれませんが、読者に楽しんでもらうためにはファンタジーと同じくらい惹きつける仕掛けが必要になります。
「第3回」ではジャンルでの選考は設けておりませんので、主人公の成長を描く上で一番ふさわしい舞台の作品をお待ちしております。
Q4. 応募作にR18描写は必須となるかをお聞きしたいです。 (PN:晩川まなえ)
A4. R18描写がないという理由だけで、選考に落ちるということはありません。ただ、BLというジャンルにおいて読者が期待している要素ではあります。そのため、R18描写がないことが物語上に重大な意味をもたない限りは入れることをおすすめします。
Q5. 応募要項に同じ世界観や設定のものを2作品応募したら選考外になるとありましたが、例えば現代の世界観で、キャラクターや話や恋をする過程が全く違うものを2作応募した場合、それは世界観が同じなので選考外になりますか?
それとも2作品ともファンタジーで世界観も同じだけれど、作品ごとにキャラクターが違っているみたいなものが選考対象外になるのでしょうか? (PN:鳴咲ユーキ)
A5. 「ひとり最大2作まで応募OK(ただし、同じ世界観や設定は選考外)」としたのは応募者の作品の幅や興味の範囲を見たいためです。
「第1回」「第2回」と続けて応募いただいた方や「第2回」で2作応募いただいた方の作品を拝読して、テーマや設定が似通った作品もあれば、全く違う作品もありました。やはりデビューを目指している段階ではできるだけ多くの引き出しがあるほうが、デビュー後も力になると考えています。
そのため質問に挙げていただいている例だけで選考外と判断することはできませんが、2作応募しようとお考えの方はぜひ「こういう作品も書けます」とアピールしてみてください!
Q6. 「上達できる・期待できる書き手」の特徴は何でしょうか?
同じ人がリピートで作品を応募した場合、読んで「前作より良くなっている」と思うのは、逆に「成長を感じない」と思うのはどのような時ですか? (PN:小波ほたる)
A6. 2つポイントを挙げるなら『技術』と『アイデア』です。伝わりやすい描写ができているかという技術と、一言で「面白そう」と読者に思ってもらえるかというアイデアに着目しています。
「第2回」の選考において「前作より良くなっている」と感じた作品は、伝わりやすい描写やキャッチーで惹きのある設定など、前作より読者を楽しませようとする姿勢が見られました。その一方で、難解な描写や同じような設定の作品が続くと「似たようなお話しか書けないのかもしれない」と感じざるをえません。

文章や構成は意識した上で数をこなせば上達しますが、アイデアは書き手自身からしか生まれません。継続して応募いただいている方の成長性もみていますので、「第3回」では技術とアイデアを意識した作品作りをしてみてください。
Q7. いつも同じような展開やキャラクターになってしまうのが悩みです。創作を始めて約1年半なのですが、ちょっと設定が違うだけでなんとなく同じような話を書いているような気がしています。 (PN:風船)
A7. おそらく起承転結やキャラクターが無意識にパターン化してしまっているのだと思います。そういった癖から抜け出すには、とにかくインプットを増やしてみてください。読者であれば自分の好きなものだけを楽しく消費すればいいですが、作家を目指すのであれば普段は手に取らないものにも積極的に触れましょう。
キャラ文庫はもちろん、BLに限らずドラマやアニメ、映画に漫画、あらゆるエンタメでOKです。まずは寝る前や通勤電車中など1日30分から始めて、習慣化してみてください。筋トレと同じく毎日コツコツ続けることで必ず身についていきます。その上で、どこが面白いのかなぜ面白くないと感じるのか分析することで、自分の中に創作の引き出しが増えていくと思います。

「第3回 キャラ文庫小説大賞」開催中!
好評につき「第3回 キャラ文庫小説大賞」を開催しています。
キャラ文庫が大切にしているのは、萌えはもちろん、主人公が恋愛を通し葛藤して成長する──≪物語としての面白さ≫です。現代ものでもファンタジーでもどのような設定でも大歓迎。
読者の心に強く残り大切な一冊として本棚に置かれる――愛され続ける作品を書きたいあなたをお待ちしています!!

大賞:50万円+書籍化 or 雑誌掲載検討
締切:2025年1月13日(月)23:59(郵送の場合は当日消印有効)


応募のきまり他詳細はこちら

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第2回 キャラ文庫小説大賞 結果発表(総評&個別講評)

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「創刊25周年記念 キャラ文庫小説大賞」が好評につき開催した、「第2回 キャラ文庫小説大賞」。応募多数の中、深い心理描写とドラマティックな展開が光る3作品が入賞いたしました。

【佳作】賞金10万円 担当編集決定!!
「特別な君と普通の恋」野宮まち ★『小説Chara vo.52』(5/22発売)掲載決定!!
≪あらすじ≫
IT企業の営業から、突然システム開発部に異動になった律(りつ)。同じチームになったのは、「天才だけど人付き合いに難あり」と有名なエンジニアの桐生(きりゅう)だ。不愛想で挨拶もろくにせず、同僚からも遠巻きにされている一匹狼。そんな桐生をなぜか放っておけず、サポートに奔走する日々で…!?

【佳作】賞金10万円 担当編集決定!!
ブルー・タイム・パラドクス春田梨野
≪あらすじ≫
大学時代の元カレが殺害されてしまった――!! かつて最悪の別れ方をした倫(りん)の死に驚愕するサラリーマンの唯人(ゆいと)。思いを馳せていたその晩、突然何者かに押し入られ、今度は唯人が刺されてしまう。ところが、目覚めるとなぜか大学生に戻っていた!! やり直せるならもうあんな苦しい恋はしたくない、と倫と関わらない決意をするけれど…!?

【期待賞】賞金5万円 担当編集決定!!
「海の底で夜は明ける」椋木鳴

≪あらすじ≫
演技仕事が多いせいで俳優に間違われる芸人の七崎(ななさき)。5年前に事故で亡くした想い人で相方とのコンビ名を残すため、どんな仕事でも引き受けている。そんな多忙の中、唯一の癒しは近所の喫茶店店員・深海(ふかうみ)だ。芸人時代からのファンだと七崎を心配してくる深海に、ある日「料理の作り置きをさせてくれないか」と頼まれ…!?

※受賞した3作の講評はChara8月号(6/21(金)発売)に掲載しております

【総評】

 「第2回 キャラ文庫小説大賞」にご応募いただきありがとうございました。深い心理描写が胸を刺す現代ものや、華やかでドラマティックなファンタジー作品など、前回を超える応募数にみなさんの熱量を感じることができました。
 けれど、今回は「ファンタジー部門」「センシティブ部門」というジャンルを設けた結果、部門名に影響を受けすぎた作品も多々見受けられました。例えばファンタジー部門では複雑な設定で読者を置いてけぼりに。センシティブ部門では起承転結が弱く、辻褄はあっているけれど目新しくない既視感のある展開などがありました。
 だからといって「奇抜なアイデア」「独創的な設定」「読者受けの良いキャラ」を考えてほしいというわけではありません。読みやすい文体やすんなり頭の中に思い浮かぶ描写、人物像など、読者に届けるためには「どう伝えるか」という『技術』が必要です。
 アイデアや設定、キャラクターは作品ごとに変えることができますが、文章そのものは自分では意識しにくいです。それを踏まえて下記3つの点に留意して、ぜひ次作の糧にしてみてください。


①「三人称主人公視点」で書いてみましょう

 今回は、前回の総評でお伝えした「主人公視点への統一」を意識した作品が増え、物語への没入感を感じることができました。その一方で、地の文が神視点(俯瞰的)な作品も多く、主人公の心情がわかりにくかったです。読者に感情移入させるために、まずは三人称主人公視点にすることを意識してみてください。そうすると主人公が見たもの感じたものが地の文に溶け込み、自然と感情に寄り添った表現になります。以下のように文末ひとつとっても主人公の感情に差が出てきます。
 例)
 神視点の場合
 ・「攻が声をかけてきた。」→客観的な事実
 三人称主人公視点の場合
 ・「攻が声をかけてくれた。」→喜びや期待
 ・「攻に声をかけられてしまった。」→嫌悪感や困惑

 他にも、応募フォーマット3段1Pすべてが地の文になっていたら要注意です。俯瞰的な事実を淡々と書き連ねるだけでは読者は疲れて、いくら大事なことを書いても読み落としてしまいます。まずは三人称主人公視点に絞った上で、エピソードか会話にするか、そもそもすべての情報を一気に説明する必要があるのか改めて考えてみましょう。地の文が2段を超えてきたらセルフチェックしてみてください。


②主人公の内面の変化を描きましょう

 今回ファンタジー部門では「世界観や設定に巻き込まれるだけで主人公自身の成長を感じられない」、センシティブ部門では「特に主人公が行動せず、相手からのアプローチによって両想いになるだけ」といった作品が多く見受けられました。
 読者があなたの作品を読み終わった時に、どんな読後感を得るか想像しながら書いていますか? 話の辻褄があっているだけでは感動は生まれませんし、恋愛が成就することはBL読者にとっては当たり前で予定調和です。例えば人間不信で周囲を拒絶してきた主人公が、相手との関係を築く中で信頼し合う喜びに気付いていく、というような、恋愛成就に加えて「主人公自身の内面の変化」を意識してみてください。
 またBLでは受・攻という二人がメインに見えてしまいますが、小説における物語の主人公は基本的に1人です。相手との恋愛を通して主人公の考え方や生き方がどう変わっているか、物語の始めと終わりの変化の幅が大きければ大きいほど、読者の読み応えや満足度につながっていきます。


③シーンの始めには5W1H、主人公の感情の立ち位置を書く

 映画の場面転換を想像してみてください。最初に場所、時間(昼夜・季節など)、その場面の登場人物が1秒で観ている人に伝わります。しかし小説は映像ではないので一瞬で伝えることはできません。
 今回の応募作では1ページ読み進めた後に回想だとわかったり、前のシーンからどのくらい時間が経っているのかわかるようでわからず、状況を把握するのに苦労する作品もありました。
 文章でわかりやすく伝えるために、シーン始めに「いつ・どこで・誰が・何を・なぜ・どうやって」という5W1Hを書いてみましょう。主人公がどんな感情でその場面にいるのかも入れてみてください。例えば、前のシーンで片想いの相手に告白された場合、次のシーンがその日の夜なら嬉しさや興奮でいっぱいかもしれないですし、1週間経っても会えていなかったら相手からの好意を疑いだすかもしれません。
 ぜひたくさんのキャラ文庫の作品を読んで、冒頭やシーン変えでどのように表現されているか着目してみてください。説明的になりすぎず、さりげなく描写されていることに気付くと思います。

また、好評につき「第3回 キャラ文庫小説大賞」の募集を開始いたします。詳細は新人賞ページをご確認ください。誰かの大切な一冊になるような、みなさまの力作を心よりお待ちしております。


中間選考を通過した中から、22作品の講評を掲載させていただきます。残念ながら今回は受賞には至りませんでしたが、ぜひ次回作に活かしてください。


「第2回キャラ文庫小説大賞」個別講評

ファンタジー部門

「孤独な魔王と人質の花嫁」青木なつき

 兄王子のスペアでしかない自分に虚しさを抱き、自らの意思で騎士団に所属する第二王子。ところが城が魔族に襲撃され、受は魔王の花嫁に差し出されることになってしまう。しかもその魔王が実はルームメイト兼親友で!? という導入がキャッチーで、楽しく読み始めることができました。脇キャラも個性豊かで、悲惨な運命を背負わされる主人公とは裏腹に、軽い文体で両片想いを描けていると思います。
 読み進めるごとにどんどん文章がノッていて、作者自身も楽しく書いている様子が伝わり好感が持てますが、思いつくままに書いている印象も拭えません。それゆえに、終盤で唐突に政治劇が始まったかと思えば、会話のみで協定が結ばれる超展開に、置いてけぼりにされてしまいました。孤独を抱えた者同士の救済と、異種族が暮らす国同士の雪解け、どちらも中途半端で、何を伝えたいお話なのかが不鮮明です。主人公が幸せになれてよかった、と共感できなければすべてが都合のいい話で終わってしまうので、もっと主人公を中心に据えた物語づくりを目指してください。

「月のオメガはアンドロイド侯爵の夢を見るか」雨井湖音

 ディストピアSF×オメガバース。大戦後、アルファだけが残った地球での生存戦略として、地球外に追いやられたオメガを攫う…という導入は面白いと思いました。その反面、AIに支配された地球人対、反AIの月面人という対立関係が判明しお話は複雑化するのに、肝心な主人公にテーマがありません。受自身がどんな人物で何をしたいのかがよくわからないので、物語のゴールも見えないまま、難解な話が展開されている印象でした。
 このページ数でこの設定を書き上げた筆力は単純にすごいですし、世界観に合った三人称主人公視点の文体で読みやすかったです。ただ主人公の性格出しと、月の文化レベルが大戦前と同等であることや、月面人(=主人公)が想像している地球の文化レベルを冒頭でエピソードとして明示すべきです。そうでないと主人公の心情に共感できず、情報・設定が積み重なっていくばかりで、物語としての面白さが半減されてしまいます。BL小説はあくまでラブストーリーです。どんなキャラクターがどんな恋をするのかという、読者が求める根幹部分を忘れないでいてください。

「傷の聖騎士」甘崎禅之助

 悪魔退治を生業とする聖騎士を目指す主人公が、上級騎士の攻の元で成長していくファンタジー。主人公視点で書くことが意識されていて、前作の戦後を舞台にしたお話から格段に読みやすくなっていました。
 悪魔関連の語彙や詠唱を使った戦闘シーン等、世界観を作りこもうとする意欲は見られたのですが、様々な概念の説明がないまま進んでいくのが気になりました。読み手の知識に頼る書き方は、読者をふるいにかけ限定してしまいます。どれだけ自分の頭の中で世界が広がっていたとしても、読者にとっては初めましてのキャラクター・世界観です。理解と共感を得られなければ、効果は半減します。
 また文章が淡泊で、心情描写が薄く感じました。そのため、聖騎士を目指す具体的な理由や、攻が主人公を騎士にしたくない理由が判明した場面の掘り下げがない等、全体的に盛り上がりに欠けます。どれだけ呪文や戦いを描いても、肝心の恋愛の過程にワクワクしなければ逆に読み飛ばされるパートになるので、キャラクターを掘り下げつつ、読者に寄り沿う書き方を心がけてください。

「魔法のランプと恋のレガート」遠間千早

 精霊への謁見を目指す旅人の攻と、攻に拾われたランプに宿る火の精霊が主人公の冒険譚。基本的には主人公の視点になっているものの、書き方が神視点なので地の文が多く、ページが進むわりには物語がなかなか始まらず冗長に感じました。また作中用語の「ジン」という主人公の種族の説明がないまま話が進むので、作品の世界観がよくわからず少し戸惑いました。
 主人公のキャラクターもかわいらしく、設定自体は面白いのですが、出会いから理由もなく溺愛に近いので関係性の発展も弱く、感情移入した書き方ができていないのでダイナミックなクライマックスや感情が引き起こす紆余曲折が描けないのがもったいないです。ラストは、なんらかの理由で謁見に間に合う、または精霊の計らいで謁見⇨選ばれて断る、という流れの方が盛り上がると思います。最初にプロットをきちんと作り、この展開は盛り上がるかどうかを考え、それが読み手の期待を上手く裏切る、または予想以上に応える、のどちらになっているのか推敲してください。

「当方天才魔術師、推しを王にしたら、次は俺の子を孕む薬を作れと言われました。」櫻坂とおこ

 魔術師の主人公が昔馴染みの王に命じられ作った「男体妊娠薬」をめぐるファンタジー。天才故に傍若無人で精神的に未熟な魔術師が、王となった攻の重い愛に気づくという主人公の心情の変化が描かれていた一作でした。
 テーマが明確で主人公の成長もわかりやすい一方で、主人公が感情的に動いた結果、世界観や設定が後付けされるので理解するのに苦労しました。ファンタジーは感情描写だけでは最後まで読者を飽かさず引っ張ることはできません。他にも本来エピソードにした方が説得力が増す部分が、地の文でさらっと書かれていたところもありました。どのエピソードでどの情報を出すか精査することで、もっと読み応えのある作品になると思います。
 また、神視点と主人公視点が入り混じっていたり、地の文をさらに括弧で補足したりと文体が感覚的です。そのせいか一国の王と強い力を持つ魔術師という責任のある立場の人間なのに、全体的に軽い印象を受けます。三人称主人公視点に寄せることで、目の前の問題が自分事になり、文体にも一貫性と読みやすさがでるので意識してみてください。

「最後の愛の記憶(メモリ)」小波ほたる

 人間が持てる感情と記憶には容量があり、限界に達すると死ぬ――その容量を増やすための手術開発に携わる研究者達の物語に、熱く心を打たれました。前回の講評を受けて、読みやすくしようとする工夫が伝わってきました。
 その一方で、地の文が硬くて三人称神視点に近い印象を受けます。また、世界観の設定や説明がまだ曖昧で理解しづらい点が多いです。独自の世界観は、読者にとって当たり前のものではありません。地の文で世界観を説明するだけでは感情移入しづらいので、誰かの感情に乗せた説明が必要になります。例えば、突然変異が起こった5-60年前当時の人々はどういう反応をしたのか。主人公は、この世界に対してどういう感情を抱いているのか。そこを軸にすることで、エピソードや展開が変わってくるはずです。
 また世界観に重きを置きすぎるあまり、なぜこの人を好きになったのかというエピソードが希薄で、なんとなく惹かれているという程度の印象しか持てませんでした。次作はぜひ、主人公の内面の変化を最優先にしてお話を作ってみてください。

「アンドロイドの吐息は濁らない」設楽ひえん

 アンドロイドが働く近未来。職にあぶれた主人公がアンドロイドだと偽り、攻が支配人のホテルに勤め始めるが…!? 受視点に統一された文章が読みやすく、アイデアも個性的で面白いと思います。
 けれど、主人公の人間らしい行動を、攻や客がまったく疑っていないことがとても不自然です。読み手に違和感を持たれないよう、世界観やルール設定をもっとしっかりと練りましょう。また、前作で指摘した「二人だけの世界」を脱しようと第三者を登場させたことは評価できますが、お話に影響を及ぼす働きをしているわけではないので、名前のあるモブの域を出ていません。
 主人公にもお金稼ぎ以外の目的やテーマがなく、家庭の事情も冒頭に出てきたきりなので、なんのために働くのか共感しづらいです。例えば、「人間ならではのサービスを目指す」とか、「兄弟の学費を稼がないといけない」などの具体的な目的があれば働く理由になりますが、働きたいからという漠然とした理由では説得力に欠けます。主人公のバックボーンを深掘り、明確なテーマを持たせることで、よりドラマティックなエピソードが生まれるはずです。

「星墜ちるころ」相田翆

 目覚めたら記憶を失っていた上、身内に暗殺されかけている。そんな伯爵令息の主人公が逃げ込んだ騎士団には「貴方が嫌いです」と言って辞職した侍従がいた――。設定のアイデアや着想にオリジナリティを感じ、キャラクター同士の会話も軽快で一気に物語に引き込まれました。
 ただ、主人公の目的意識がぼんやりしているせいで、「失った記憶を取り戻す話」なのか、「不治の病を治す話」なのか、「敷かれたレールから外れ、自分にしかなれないものを探す話」なのか、物語の方向性が二転三転したように感じます。主人公が記憶をなくした理由も書かれておらず、記憶の取り戻し方にも法則性がありません。全体的にプロット通りに都合よくエピソードを作っている印象だったので、まずは主人公がどういう風に成長する話なのか、プロットの段階から一本のシンプルな軸を作りましょう。
 前作に比べ視点の統一はできていたので、次は三人称主人公視点にもチャレンジしてみましょう。壮大なファンタジーである一方で後出し設定が多く見受けられたので、読者が世界観を思い描けるように情報の整理をしてください。

「初心なヴァルキューレは悪神に惑う」長朔みかげ

 前世であるヴァルキューレの使命に揺れる一方で、罪悪感を抱えながらも恋に憧れる主人公が、前世で敵対していた悪神ロキと再会するファンタジー。北欧神話をベースにした世界観に転生ものの要素が加わり、キャッチーで楽しく拝読しました。
 一方で、三人称神視点の地の文の硬さと、キャラクターの軽快な話し方がミスマッチで没入感に欠けます。加えて、設定の作りこみも甘く、キャラクターの前世が神である意味や、神話を活かした展開が希薄で、勢いまかせな印象です。悪逆非道な前世を持つ攻が、終始軽く都合のいい存在に描かれており違和感を覚えます。
 また、主人公のテーマが「使命を全うすること」なのか「ヴァルキューレの檻から抜け出すこと」なのかが曖昧で、結果として物語に流されているように感じました。主人公の目的意識が見えなければ、物語を通しての変化が感じられず、恋愛成就にも納得感が得られません。まずは、主人公のテーマを明確にすることを意識してみてください。

「青炎は銀の御巫の愛に燃ゆ」葉咲透織

 憧れの人間世界に召喚された、できそこないの火の精霊――けれど水の精霊と勘違いされたまま、攻である御巫との交流が始まる、というキャッチーな冒頭に引き込まれました。実は二人は過去に出会っていたり、陰謀や戦争が絡んでいたりと、ドキドキさせられるエピソードもたくさんありました。
 ただし、主人公に明確な目的があるようでないので、なりゆきで物語が進んでいく印象を受けます。「人間界に行きたい」も主人公の目的の一つですが、人間界に召喚された時点でそれは叶ってしまいます。早々に目的が達成されると、その後の展開をどういう指針で読めば良いのか、読者が迷子になりかねません。
 そのため、主人公の自身に対する感情の出発点が冒頭に欲しいです。「できそこないのままでいい」のか、「精霊としての役割を果たしたい」のか。そして物語が終わった時に、それがどう変化していたか。軸ができれば、キャラにも一貫性が増し、物語にもより深みが出るかと思います。設定の着眼点はとても面白いので、次作はぜひ「物語を通して解決したい主人公の感情の出発点」を意識してみてください。

「悪魔が棲む町~引きこもり精霊、夜烏と出会う~」藤多畑

 悪魔だけを斬る剣に宿る精霊と契約依頼をしに来た精霊士が、悪魔が関わる連続殺人事件を追う――。無垢で世間知らずな受の精霊と、悪い大人な人間の攻の組み合わせや、二人の会話・掛け合いのテンポがよく面白く読めました。
 その反面、攻は受に対して最初横柄な態度をとっていたはずが、いつの間にか受を溺愛していた印象です。何がきっかけで恋に落ちたのか理由が弱く、気持ちの変化がわかりづらいです。また、前作より地の文は減っていましたが、それでもまだ説明過多で冗長に感じました。短いシーンの中にも何を伝えたいのかテーマが必要です。全体で見ると、攻が殺人事件を解決するために受を探していたのに、世界観や契約者の説明が続き、事件解決のために動き出すまでが長いです。突然二人の距離が縮まり、事件も犯人の予想がつきやすい謎解きだけのあっさりとした内容に感じました。
 二人が事件を通して成長し、恋愛面でも距離を縮める様子を描くことを意識してみてください。キャラクターの好感度は高いので、世界観と設定を活かしたエピソードが作れればぐっと読み応えが増すと思います。

「あのメロディの舞台裏」森洲うらら

 「なりたいものになれ」と両親に言われて育ったのになりたい職業も見つからず、学校でもモブ扱いの主人公が転移したのは、好きなゲームの世界。流行りの異世界転移ものでありつつも、主人公がなるのは勇者でも騎士でもなく、宿屋の『笛吹き』という意外性が面白かったです。
 三人称主人公視点に統一された文章で、主人公のテーマもはっきりしていたのは良かったですが、もう1本の応募作とテーマや攻を好きだと気付く展開等、全体的に似通っているように感じました。物語としての起承転結が弱く、せっかくの設定を活かしきれないのはもったいないです。インプットを増やし、地の文で心情の変化を描くだけでなく、もっとエピソードを練って物語を作っていくよう意識してみてください。
 また掲げたテーマに対して、恋愛以外の部分で主人公がどういう気づきを得て、どんな行動を取るのかという結論がないとぼんやりしたラストになってしまいます。主人公の成長に加えて、実は第四王子だったという宿屋主人の攻にも、序盤との変化が見えるとさらに深みのある作品になるはずです。


センシティブ部門

「Lies to you」朝海しほ

 ケガで現役引退した陸上選手が、建築家を目指す高校時代の同級生と再会し再起する物語。三人称主人公視点で書かれていて、キャラも共感しやすく読みやすかったです。
 その一方で、全体的に会話劇で物事が進んでいっているように思えます。前作もですが、物語の進め方として、サブキャラが喋る→受けが思考→次に攻めと会話→行き詰まったらサブキャラと会話、という流れなのでドラマにメリハリがなく、主人公が変化し成長している様子がみられません。会話だけでドラマティックさを演出することは難しいです。
 嘘つきで損をしている人を主人公にするのなら、攻との再会や仕事を通して正直に行動できるようにならないと、冒頭の幼稚園のエピソードがどこにも繋がらないラストになってしまいます。このお話は、選手として跳べなくなった自分をどう受け入れ、恋と仕事を通じていかに成長していくかという主人公の物語です。BLなので恋愛を描くのはもちろんですが、それ以外のテーマをしっかりと描くことで読者の心をより掴めると思います。

「父の恋人」緒川ゆい

 自由奔放で家族を捨てた父親の葬儀で出会った父の恋人は、若く美しい男だった――。印象的な冒頭から始まり、恋愛を通して主人公の父に対する確執が解けていく様子がしっかり描かれていました。
 三人称主人公視点の読みやすい文章で進む一方で、中盤で明かされた受の過去が特に伏線がなかったため唐突に感じられました。また、主人公の抱える葛藤が「父親の恋人を好きになったこと」なのか「元犯罪者の息子を好きになったこと」なのか、渾然一体となっていたように思えます。
 攻の弟を庇い受が刺されるラストも、絵としてはわかりやすい山場であり事件としても派手ですが、主人公である攻自身に特に関係がなく、この物語のクライマックスとしてはとても散漫に感じられました。主人公が掲げたテーマにじっくりと向き合い、どういったエピソードがあれば冒頭との変化を出せるかをもっと考えてみましょう。また、心情が変化した結果主人公がどういう行動に移すかを描くことで、読み応えにも繋がります。

「あと五分が待てなかった。」熾月あおい

 周囲からは合格確実と思われていたのに、高校受験の結果は不合格――。気に食わない塾講師への腹いせに、答案を白紙で出した主人公。人生を棒に振ったその後から始まる再生の物語に、一気に引き込まれました。
 前作とは異なるジャンルに挑戦する姿勢にも好感が持てます。また、作中に散りばめられた文学のたとえ話や蘊蓄から、作者が小説を読み込んでいることが窺え、構成やアイデアにも工夫が見られます。
 その一方で、地の文が冗長で、小説というにはあと一歩物足りない印象です。例えば、途中で登場したキャラクターが、あまり交流を深めることなく死んでも、エピソードが少なければ読者には刺さりません。読者を主人公の視点に引き込んで感情移入させてからなら、共通の知人の死を乗り越えてハッピーエンドに至るまで、もっとドラマティックに盛り上げることができたはず。エンタメとして、読者が読むことを想定し、物語を膨らませてみてください。そのためには、主人公がこの物語を通してどのように成長(変化)するのか、起承転結をプロットの段階でもっと作り込んでみましょう。

「彼の『愛してる』は他人のもの」須宮りんこ

 主人公は、 “声”を武器に生計を立てている動画配信者という今どきのキャラクター。恋人を亡くした攻からの依頼で、亡き恋人の声真似をするうち、一途な彼に惹かれていくストーリーが繊細に描かれていました。
 柔らかく読みやすい文章ですが、大きな山場もなく、「故人を想い続ける相手に片想いする」という切ない雰囲気頼りになってしまっているのが惜しいところ。前作には、転生という“色”がありましたが、センシティブ一本だとよりその印象が顕著でした。痛々しい疑似恋愛で読み手の胸を衝くことはできても、なぜそうまでして関わりを持とうとするのか、主人公の意図がわからずでは、たとえ過去を乗り越えて想いを成就させても大きな感動にはなりえません。何より、一途である攻が、受から提案された疑似恋愛を受け入れたのはなぜですか?
 相手を救うことで自分も救われるという、王道な道筋がある分、勝負するポイントは登場人物の心情変化にかかっていると言っても過言ではありません。より共感性が高く、設定にオリジナリティのあるキャラクターになっているか見返してみてください。

「別れさせ屋と冥婚の伴侶」タカツ四季

 亡くなった姉の恋人への片想いに苦しむ主人公。幼馴染みで別れさせ屋の攻に恋心との決別を依頼するが、故郷で冥婚をめぐる殺人事件に巻き込まれていく。恋愛だけではなく事件や設定を入れ、読者を楽しませようとする点は評価できます。
 けれど、設定の説明や事件解決への出来事に多くの分量が割かれており、肝心の主人公の感情描写が希薄です。そのため片想いへの疑問や昇華、攻の献身的な愛に気づくといった主人公の感情の流れが唐突で、気がついたら攻に絆され両想いになっていたように感じました。出来事やエピソード、周囲の行動によって物語を動かすのではなく、主人公の心情を中心に物語を動かしましょう。そうすることで本当にその設定が必要か判断しやすくなると思います。
 また、前作でも殺人事件や特殊な職業が出てきており今作と似た印象です。推理小説なら犯人を特定するのが大事ですが、恋愛小説においてはそれだけでは物足りません。読者を引き込む設定を作ろうとする姿勢はとてもいいので、次作では地の文から主人公の感情に寄せることを意識してみてください。

「君のために出来ること」トオノホカゲ

 元ヤン養護教諭の受と、ろくでもない父と二人暮らしの高校生の攻。愛された経験の乏しい二人が、丁寧に感情を育んでいくところに好感が持てました。読みやすい文体で、受が攻のために自ら行動していく姿勢も良かったです。
 一方で受の言動が年齢の割に幼く、言葉遣いが半端に悪い一面を「元ヤンだから」で済ませているような印象を受けました。また親友のような立ち位置のカウンセラーが、都合よくそばにいて片想いしていたりと、プロット通りの箱書きになっていて説得力が弱いです。途中から攻が受をきっかけなく「千草さん」と下の名前で呼んだり、印象的な登場シーンのない当て馬の生徒が「俺を選んだほうがいい」と告白する等、物語上都合のいいリアリティに欠ける台詞回しが多く感じました。
 自分都合でキャラを動かしても、読者からは共感されづらいです。キャラに寄り添えなければ、いくら辻褄が合っていても読者は感動しません。先生と生徒という関係性をふまえて、その台詞が本当にふさわしいか、キャラの行動は共感できるものかを意識してみてください。

「長恨の雪虫」柮火おと

 自分を裏切った幼馴染みを探すため潜水艦乗りとして働く主人公と、厳しい指導で有名な副長。過去に傷を負った主人公が攻との交流を通して再起に向かう――前作同様、緻密な仕事描写とドラマティックなシーンづくりが巧みで読み応えがありました。課題であった地の文の長さにも改善が見られ、視覚的に読みやすい文章作りができています。
 その一方で、地の文が神視点に近く、主人公に感情移入しづらい印象です。特に冒頭は読者を物語に引き込むための入口です。客観的な事実を書き連ねるのではなく、「主人公が何を思って行動しているか」心情を意識して書いてみてください。
 また前作と同じく、主人公が自衛官であるという設定の偏りが気になります。知識があるからこそ、どの程度現実に即した描写にするか、フィクションとのバランスを見直してみましょう。読者が読み終わった後にどのような感想をもつか考え、カタルシスや恋が成就してよかったなど、満足度の高い読後感を意識してみてください。

「Nude」鈍野世海

 幼い頃、偶然出会った攻に描いた絵を否定され、仄暗い情熱を燃やし美大に進学した主人公。やがて芸能人となった攻と再会し、復讐のためヌードモデルを依頼して…!? 二人の歪んだ感情が複雑に絡み合った再会愛、大変読み応えがありました。地の文が多く少し冗長に感じますが、心情描写を意識的に取り入れている点に好感が持てます。
 その一方で、主人公の絵が嫌いと言って疎遠になってしまう展開は、きっかけとなるエピソードが弱く、説得力に欠ける印象です。主人公に異常なほどの執着を見せる攻が、ここまで再会を引き延ばす理由が感じられません。クライマックスの主人公の才能に嫉妬した同期が、アトリエに火をつけるという展開もありがちで半端に感じられます。物語を盛り上げるために事件ありきで設定を組んでしまうのは、読者の感情を置き去りにしかねません。
 書きたいシーンやセリフの間を地の文で埋めて繋いでいるような印象を受けるので、まずはキャラクターの目的とゴールを明確にし、そのために必要な展開を見直してみましょう。

「食事はひとりで、もしくはきみと」にわのすみ

 「食事はひとりで食べるに限る」をモットーとした主人公が、お一人様不可の店に行くためにSNSで出会った攻と食事に行く――。着想として現代的な導入や、攻の「フードコーディネーター」という専門的な職業に、知識欲を刺激されました。
 文章も丁寧な三人称主人公視点で読みやすくはありましたが、地の文で最後まで攻のことを「サキさん」と呼んでいたのが気になります。主人公視点と一人称は似て非なるものなので、意識してください。
 また、人付き合いが苦手という設定なのに、些細なことで仲違いをし、攻の実家の青森まで追いかける行動力に違和感がありました。キャラクターに合わせた展開というよりも、ストーリーを成立させるためのエピソードに思えます。ラストもふんわりとしていて、主人公の成長や変化がわかりにくいです。食を通して、人付き合いや会社でのスタンスが変わったか、変わらないんだとしたらなぜ変わらなかったのか、そこが書かれていないと、物語としての普遍性は弱く共感もしづらいお話になってしまいます。

「とあるNo.1ホストの都落ち」藤吉とわ

 太客の姫とトラブルを起こし、一時的に田舎に避難したホストの主人公。文体が主人公の受視点に統一されており、また田舎の描写や空気感も伝わってきやすく、物語に入り込みやすかったです。前作よりも主人公への共感性も高く、起承転結のメリハリがあり楽しく拝読しました。
 一方で、キャラクターの作り込みが甘い点と、コンパクトにまとまっているがゆえに展開が予定調和な点が気になります。攻も元ホストですが、なぜ辞めたのかの経緯などがわかりづらいです。また世界にほぼ二人しかおらず、二人だけで動かすエピソードや展開には限界があります。祖父が登場しますが、特に二人の仲を怪しまないので、都合のよいキャラになっている印象を受けます。これといった特筆するエピソードがないまま、お互いになんとなく惹かれていった印象なので、もっと具体的なエピソードが欲しいです。
 キャラに萌えて書いているのはとても伝わってくるので、次作はぜひ、総評で取り上げた「主人公の内面の変化」を意識して書いてみてください。そうすることで、情報を出す順番や盛り込むエピソードの具体性も変わってくるかと思います。

中間選考通過者で上記個別講評に漏れた方の中で、ご希望の方に簡単な個別講評をお送りします。

受付期間内に希望連絡いただいた方に7月25日(木)に送信を完了いたしました。
「ch-info@shoten.tokuma.com」から連絡いたしましたので、未着の方は「迷惑メール」に届いていないかご確認ください。
※応募いただいた作品への個別講評となります。改稿作や新作の送付はお断りしております。
※お送りした個別講評に関しましては、無断転載・引用・インターネット上やSNSへの掲載はご遠慮ください。

「第3回 キャラ文庫小説大賞」Q&A

「第3回 キャラ文庫小説大賞」応募予定の方から募集した質問に編集部が回答いたしました。ぜひじっくり読んで、応募作づくりにお役立てください!! たくさんのご応募お待ちしております!

「第3回 キャラ文庫小説大賞」Q&Aはこちら

「創刊25周年記念 キャラ文庫小説大賞」大賞受賞作 書籍化決定!!

「創刊25周年記念 キャラ文庫小説大賞」で大賞を受賞した『つつけば壊れる』(著:鳴海)の書籍化が決定! 2024年秋頃に発売予定です。ぜひ続報をお待ちください♥
※タイトルは変更になる場合がございます。

※公平を期するため、第2回キャラ文庫小説大賞選考に関する問い合わせには一切応じられませんのでご了承ください。

第2回 キャラ文庫小説大賞 結果発表

更新

「創刊25周年記念 キャラ文庫小説大賞」が好評につき開催した、「第2回 キャラ文庫小説大賞」。応募多数の中、深い心理描写とドラマティックな展開が光る3作品が入賞いたしました。

【佳作】賞金10万円 担当編集決定!!
「特別な君と普通の恋」野宮まち
≪あらすじ≫
IT企業の営業から、突然システム開発部に異動になった律(りつ)。同じチームになったのは、「天才だけど人付き合いに難あり」と有名なエンジニアの桐生(きりゅう)だ。不愛想で挨拶もろくにせず、同僚からも遠巻きにされている一匹狼。そんな桐生をなぜか放っておけず、サポートに奔走する日々で…!?

【佳作】賞金10万円 担当編集決定!!
ブルー・タイム・パラドクス春田梨野
≪あらすじ≫
大学時代の元カレが殺害されてしまった――!! かつて最悪の別れ方をした倫(りん)の死に驚愕するサラリーマンの唯人(ゆいと)。思いを馳せていたその晩、突然何者かに押し入られ、今度は唯人が刺されてしまう。ところが、目覚めるとなぜか大学生に戻っていた!! やり直せるならもうあんな苦しい恋はしたくない、と倫と関わらない決意をするけれど…!?

【期待賞】賞金5万円 担当編集決定!!
「海の底で夜は明ける」椋木鳴

≪あらすじ≫
演技仕事が多いせいで俳優に間違われる芸人の七崎(ななさき)。5年前に事故で亡くした想い人で相方とのコンビ名を残すため、どんな仕事でも引き受けている。そんな多忙の中、唯一の癒しは近所の喫茶店店員・深海(ふかうみ)だ。芸人時代からのファンだと七崎を心配してくる深海に、ある日「料理の作り置きをさせてくれないか」と頼まれ…!?

※受賞した3作の講評はChara8月号(6/21(金)発売)に掲載しております

第2回 キャラ文庫小説大賞」の総評と受賞外の一部作品の講評は、7/1(月)にChara公式サイトにて掲載いたします。

「第3回 キャラ文庫小説大賞」開催決定!!

好評につき「第3回 キャラ文庫小説大賞」の開催が決定!
誰かの大切な一冊になるような、みなさまの力作を心よりお待ちしております。詳細は下記よりご確認ください。

第3回 キャラ文庫小説大賞 詳細

応募予定の方の質問大募集!

「第3回 キャラ文庫小説大賞」に関する疑問に編集部がお答えします。応募にあたっての質問や創作の悩みなどどんなことでもOK!下記質問フォームよりお待ちしております。

質問受付フォーム
募集期間:6/21(金)~7/8(月)21:00
回答:7/19(金)Chara公式サイト上

※すべての質問には回答できない場合がございます

「創刊25周年記念 キャラ文庫小説大賞」大賞受賞作 書籍化決定!!

「創刊25周年記念 キャラ文庫小説大賞」で大賞を受賞した『つつけば壊れる』(著:鳴海)の書籍化が決定! 2024年秋頃に発売予定です。ぜひ続報をお待ちください♥
※タイトルは変更になる場合がございます

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第2回キャラ文庫小説大賞 中間発表

更新

「第2回 キャラ文庫小説大賞」の中間選考が終了し、最終選考に進む作品が決定しました。たくさんのご応募、ありがとうございました。

厳正な審査の結果、最終選考の候補となったのは以下の57作品(ファンタジー部門25作品、センシティブ部門32作品)です。(※敬称略・50音順)

また、この中から有望な方には、
★担当編集者がつき、次回作をバックアップします。
★編集部から個別に講評をお返しします。

ファンタジー部門≪25作品≫

ペンネームタイトル
青木なつき孤独な魔王と人質の花嫁
雨井湖音月のオメガはアンドロイド侯爵の夢を見るか
甘崎禅之助傷の聖騎士
天音月那エバーブルー
遠間千早魔法のランプと恋のレガート
櫻坂とおこ当方天才魔術師、推しを王にしたら、
次は俺の子を孕む薬を作れと言われました。
久保木りつ至愚の腹を苺は満たせるか
小波ほたる最後の愛の記憶
彩けい声を聞かせて
汐見おるは月にほえれば
設楽ひえんアンドロイドの吐息は濁らない
相田翆星墜ちるころ
透綿瑠璃エレスセーアの物語
長朔みかげ初心なヴァルキューレは悪神に惑う
猫森千世久遠の果てに虹を待つ
葉咲透織青炎は銀の御巫の愛に燃ゆ
春田梨野ブルー・タイム・パラドクス
萬里一モノノケ祓いワンパンにつき!
緋田はずみ碧落のマグノリア
神父と悪魔の最期の旅
藤多畑悪魔が棲む町~引きこもり精霊、夜烏と出会う~
藤間背骨不在証明の薔薇
藤龍河天狗様と恋をする
森洲うららあのメロディの舞台裏
夕月雅貴運び屋は嘘つき男娼に愛されたい

センシティブ部門≪32作品≫

ペンネームタイトル
葵未悠青白色のデリート
秋本きらあなたが欲しいと言えなくて
朝海しほLies to you
天ケ瀬なぎセンターコートは君の光
雨宮理久イリーガルラブ
緒川ゆい父の恋人
川崎葵失う悲しみが導く先に
桐山アリヲ暁に手をのばす
椋木鳴海の底で夜は明ける
群青恋にともなう痛みについて
桜ノ肇影、延びる日は
迫いつき僕らはあの夏を、きっと何度も思い出す
雫川サラ春が、来る。
熾月あおいあと五分が待てなかった。
鈴木すずそれでも好きだと言いたかった
須宮りんこ彼の『愛してる』は他人のもの
瀬川香夜子花は一人で咲いているか
タカツ四季別れさせ屋と冥婚の伴侶
多岐川あきら夜明けまでのディスタンス
トオノホカゲ君のために出来ること
柮火おと長恨の雪虫
中原涼Dinner
鈍野世海Nude
にわのすみ食事はひとりで、もしくはきみと
野宮まち特別な君と普通の恋
晩川まなえ探偵は王子じゃない
藤吉とわとあるNo.1ホストの都落ち
ましろい冬野君の隣で恋を歌っていた
真魚ゐ僕の愛しい料理人
村井あさひファーストキスまで六〇〇日
矢野白馬男の歌姫
よしうらいつか心中するふたりに

最終選考結果は、6/21(金)発売のChara8月号ならびに公式サイトにて発表いたします。
大賞作品は書籍化or雑誌掲載検討!
引き続き、ご注目ください。

※公平を期するため、選考に関する問い合わせには一切応じられませんのでご了承ください。


▼第1回キャラ文庫小説大賞、最終結果ならびに総評はこちら


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