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第3回 キャラ文庫小説大賞 結果発表(総評&個別講評)

更新

「第3回 キャラ文庫小説大賞」に応募いただいた皆様ありがとうございました。個性溢れる作品多数の中、キャラクターの魅力が際立ち、読みやすい文章で今後の成長と可能性を感じさせる作品が入賞いたしました。

【佳作】賞金10万円 担当編集決定!!
「夏の終わりに生まれ変わる」兎騎かなで

≪あらすじ≫
アメリカで両親とともにアーミッシュの信仰を持つ16歳のノア。モラトリアムとして一時的にNYで働く、兄のように慕う幼馴染みのエヴァンから「もう故郷には戻らない」と手紙が届く。故郷で一緒に生きていくと思っていたのに、一方的に関係を終わらせるなんて許せない!! 真意を確かめるため、エヴァンのもとに向かうけれど…!?

【佳作】賞金10万円 担当編集決定!!
「皇子の影に愛はいらない」米花莉衣

≪あらすじ≫
第二皇子の影武者として育てられた孤児のルル。皇子の婚約が決まり、影武者としての役目も終える。そんな矢先に皇子が何者かに毒を盛られてしまう。身代わりとして嫁ぐことになったものの、絶対バレてはいけない――!! ところが婚約者となった王子クライスに「例のものはあったか?」と訊かれたけれど、全く心当たりがなくて!?

※受賞した2作の講評はChara8月号(6/20(金)発売)に掲載しております

【総評】

 「第3回 キャラ文庫小説大賞」にご応募いただきありがとうございました。継続して応募いただいている方や2作応募の方も増え、みなさんの変わらぬ創作への熱を感じることができました。
 今回はこれまでの総評で編集部がお伝えしてきた「主人公のテーマ」や「三人称主人公視点」を意識した作品が増えたように感じました。けれど、物語を進める過程でテーマが二転三転したり、置き忘れられている、または地の文に感情描写がなく淡々としている等、キャラクターの深掘りや表現する技術が足りていない印象です。
 特にみなさんが感情描写として書いているであろう文章は、ほぼ状況描写もしくはアクション描写であることが多く見受けられました。

  例えば
  【先輩は振り返りもせずに去ってしまい、思わず唇を噛みしめた。】
  このように唇を噛みしめるというアクションだけでは、主人公が悔しいのか悲しいのか、怒っているのかがわかりません。

 地の文(文体)は漫画でいう絵柄に近いものだと思ってみてください。デビューを目指す段階では、手に取りやすい絵柄であることはとても重要です。だからといって、今持っている絵柄をすべて変えたほうがいいというわけではありません。どうやったら伝わるか、この表現でいいのか、もっと多くの読者に届けるために磨いていきましょう。

 みなさんの作品を拝読した上で、さらに意識していただきたいのは下記の通りです。過去の総評とあわせてぜひ次作の糧にしてみてください。

第1回総評 主人公の目的またはテーマを意識して書く
第2回総評 わかりやすく伝えるための『技術』とは?


①主人公の職業と性格に一貫性を持たせましょう

 これまでの総評でお伝えしている「主人公のテーマ」を意識した作品が増えましたが、その一方でテーマをうまく消化できていない作品も多く見受けられました。
 テーマというと概念や解釈が難しいかもしれません。そこで、まずは主人公の「職業」と「性格」から考えてみましょう。

  例えば
  過去受賞作 キャラ文庫『天才画家になりそこなった友へ』の主人公
  職業:中堅デザイナー
  性格:画家になる夢を諦めきれず、燻っている。管理職より個人作業のほうが好き。

  過去受賞作 キャラ文庫『オンエア終了、反省会をはじめます!』の主人公
  職業:新人アナウンサー
  性格:かつて自分を救ってくれたアナウンサーが目標。アドリブが苦手だけど克服したいと思っている。

 例に挙げた2作の主人公の職業と性格は、攻が不在でも成立することがわかると思います。これらから生まれる「諦めた夢ともう一度向き合うのか」「目標を叶えることができるのか」という物語の軸こそが「主人公のテーマ」なのです。
 まずは主人公の職業と性格に相関関係を出すことで、言動に一貫性が出て読者は感情移入しやすくなります。デビューを目指す段階では、主人公が何をする話なのかを明確にして作品づくりをしてみてください。


②1シーン毎に主人公の感情の変化を書く

 前回の講評で「シーンの始めには5W1H、主人公の感情の立ち位置を書く」とお伝えしましたが、1シーンを通じて、主人公の変化を書くことをもっと意識してみましょう。
 例えば恋愛シミュレーションゲームの場合、選択肢を選ぶことで、キャラクターの好感度が上がる、もしくは下がるかすると思います。
 小説も同じで、主人公の感情のパラメーターを読者に提示することを心がけてください。もちろん相手への好感度に限ったことではありません。「不安」や「怒り」など何でもいいです。前のシーンを受けて、次のシーンではどの感情のパラメーターが上がる、または下がるシーンなのか意識してみてください。

 そして今回の応募作で全体的に印象に残ったのは「1シーンが長い」ことです。読者はすべての文字を記憶できるわけではありません。1シーンの中で思いつくまま書いていては、大事な情報が埋もれ読者を置いてけぼりにしてしまいます。
 読者を迷子にしないために、1シーンの始めと終わりで主人公の感情がどう変化したのかをはっきり書きましょう。
 具体的にはファンタジーの場合、1シーン文庫フォーマット8~10Pを意識してみてください。テンポが生まれ、読みやすさが増すはずです。1シーンが短いことより、10Pを超えてきた場合は確認が必要です。本当にすべてがこのシーンで伝えるべきことなのか、削れる、または他のシーンに持っていったほうが効果的なのか、推敲しましょう。
 ぜひたくさんのキャラ文庫を読んで「1シーンのページ数」「シーンの始まりと終わりで主人公の感情がどう変化しているか」に注目してみてください。


③プロの作家を目指すのであれば、インプット量を増やしましょう

 第1回から3回まで継続して応募いただいた方や今回2作応募いただいた方の作品の内、テーマや設定、物語の展開が似通った作品がありました。プロの作家を目指している段階で同じような展開やキャラクターになるのは、無意識に書きやすい道筋をたどっているか、またはインプットの量が少ないため、バリエーションに幅がないということが考えられます。
 インプットをしないとアウトプットはできません。インプットするということは、発想やアイデアのバリエーションを増やすということです。

 例えば「この戦いが終わったら、お前に言いたいことがある」というセリフは所謂「死亡フラグ」だとみなさんわかると思います。けれど、このセリフがあった作品を咄嗟に挙げられる人は少ないはずです。過去に読んだり観たりした数多の作品から、いつの間にかみなさんの創作の引き出しに入っているのです。また、そもそもこういった作品に触れたことがない人には連想することすらできません。

 このようにインプットすればするほど、いつのまにか自分の中に血肉となって溶け込んでいきます。自分だけが思いついた、素晴らしい展開やストーリーは、すでに誰かが書いていると思ってください。好きなものだけを読んで、好きなものだけを書くのではデビュー後もプロとして続けていくことは難しいでしょう。たくさんインプットすればするだけ、書ける話は必ず増えていきます。
 まずはインプットの習慣化に取り組んでみてください。寝る前や通勤電車の中など1日30分から始めてみましょう。筋トレと同じで少しずつ読む時間と量を増やしていきましょう。そしてインプットを増やす中で、どこが面白いのかなぜ面白くないと感じるのか分析することで、創作の下地が出来上がっていくはずです。

また、この度「キャラ文庫ファンタジー小説大賞」の募集を開始いたします。詳細は新人賞ページをご確認ください。誰かの大切な一冊になるような、みなさまの力作を心よりお待ちしております。


中間選考を通過した作品の中から、応募者全員の今後の創作に役立てていただきたいという観点で22作品の講評を掲載します。
これらの講評には、応募者全員に共通してお伝えしたいポイントが含まれています。
ぜひご自身の作品を振り返りながら、次回作に活かしてください。


「第3回キャラ文庫小説大賞」個別講評

「群星の海で、またあいましょう」青木なつき

 ストーカー被害にあっている大学4年生の主人公。実は主人公と恋人同士だった前世の記憶を持つ学者の攻が、ストーカーのように主人公を見守っていた――。「前世の恋人がストーカーしてくる」という導入や設定がキャッチーで楽しく読み始めることができました。
 ただ、二人の出会いはキャッチーでしたが、その後の展開に設定が活かされていない印象です。前世の恋人を29年間探していた攻が主人公と出会って何がしたいのか、記憶を取り戻させる目的は何だったのか理由がわかりませんでした。また主人公も「臨床心理士を目指す」という行動に出ますが、前世で処刑されてしまった過去や今世で乗り越える障害には具体的な繋がりがありません。二人が記憶を取り戻すことを通じて、過去を乗り越えて成長し、恋愛面でも距離を縮めていく様子を書くことを意識してみてください。
 また、ストーカーの攻に嫌悪感を示していたはずが、攻との関わりや前世のことを知っていく過程で心動かされていく、というこの心情は、神視点に近い三人称では共感がしづらいです。読者に感情移入させるためにも、ぜひ三人称主人公視点に統一することを意識してみてください。

「もういいよ、どうもありがとうございました」甘崎禅之助

 自己肯定感の低い高校生の主人公が、クラスの人気者の受と共にお笑いの道を拓いていく――夢がある一方、現実はそううまくはいかないという展開で、読み応えがありました。
 前作・前々作よりもさらに、キャラクターを書ききろうとする熱意が伝わってきます。一方で、やはりまだキャラクターの掘り下げが弱い印象を受けました。攻は芸人を目指すと決めて実家から勘当されていますが、どんな家庭環境なのか、父親がエリート思考ということ以外伝わってきません。その父親自身も一般会社員なので、余計にエリート思考である理由がわからず感情移入しづらいです。攻はプロのお笑い芸人になり、受は父親が倒れてから会社員の道に進みましたが、それでも同居を解消していないというのも都合がいいです。
 また、受が攻と距離を置く理由が弱く、テンプレ書きのような印象を受けました。攻→受視点の二部構成は双方の感情はわかりますが、一方で展開がわからないドキドキ感が半減する恐れがあります。まずは主人公視点に統一することを意識してみてください。

「むすんでひらいておうちごっこライフ」伊藤あまね

 推しのギタリストにガチ恋する新米保育士の主人公。ある日、ギタリストが一時的に預かっている3歳の姪っ子を助けたことをきっかけに、お世話を手伝ってほしいと頼まれ同居が始まる――。同居子育てものの王道設定のためストーリー展開に無理がなく、子供のかわいらしい様子も感じられました。
 けれど前回に引き続き一人称主人公視点で、日々のほのぼのとした日常シーンの積み重ねとなっているため、大きな山場がなくクライマックスも盛り上がりに欠けていたように感じます。この書き方や展開は、前作やもう一本の応募作のファンタジーにも共通していたのが気になります。
 また同居子育てがメインになり、攻のバンドのライブや練習シーンなど、音楽に携わる場面がほぼ出てきませんでした。主人公が保育士という理由は姪っ子を一緒に世話する理由に繋がっていましたが、攻がギタリストという職業である意味があまり感じられません。「推し」「指フェチ」「バンドマン」というキャッチーな設定・職業を入れるのであれば、それを活かしたストーリーを考えてみてください。

「燈色薬師の二度目の結婚」稲村ヨジ

 元皇帝の妃で薬草の研究者の青年が、自分を救ってくれた公爵の呪いを解くために奮闘するファンタジー。読みやすい文章で、主人公が生き生きと描かれているのが印象に残りました。ただ、ファンタジー設定なのに情景描写が少なく、会話とエピソードでストーリーが進んでいくので、読者に物語がリアルに伝わりにくいように思われます。
 そして、プロローグで濡れ場から始まり次にそこに至る回想という流れですが、これは漫画の導入ではよくある手法ですが、小説ではいきなりキャラクターもわからないまま物語が始まってしまい、読者が置いていかれる印象です。まずは導入部で、世界観・主人公のキャラクター・物語のテーマをきちんと入れると、読者が物語の世界に入りやすいです。
 さらに、主人公がただ公爵に殺されたくないというだけで特に目的やテーマがないように思えます。恋愛面も大切ですが、それ以外のテーマもしっかりと描いてほしいです。例えば、主人公しか持っていない能力を使って人々を救いたいなどの目的を持たせて、主人公の成長や着地点を決められれば、さらに物語が盛り上げられるのではないかと思います。

「僕がしたいことは先生を、」緒川ゆい

 両親を亡くし、中学生の弟を育てるため大学を中退してライターになった攻。生活に追われる中、弟の担任として現れたのは、高校時代想いを寄せていた元予備校講師だった――。4年ぶりの再会に、憶病ながらも手を伸ばす切ない両片想いに胸を打たれました。丁寧な心情描写と主人公視点に統一された柔らかい文章も作品とマッチしています。
 しかし前作同様攻視点で、主人公にテーマがないのが気になります。物語に大きな破綻はありませんが、ひとつひとつのエピソードがオチをつけるための都合のいい装置でしかなく、目新しさのない予定調和な印象を受けました。
 特にクライマックス、受が作家となった元教え子とサイン会で再会するシーン。主人公である攻はどこにいて何をしていますか? 何を感じていますか? 物語を傍観して受の様子を描写する、カメラを回すだけの立場になっていませんか? 主人公不在のまま受が救済されており、読み応えが弱く感じられました。主人公と関係ないところに物語の山場がある展開は、共感しづらく読者は読後の満足感を感じられません。この主人公だからこそ生まれるドラマ=葛藤とは何かをもっと徹底的に考えてください。次作ではぜひ受を主人公にした、引き込まれる物語をつくってみてください。

「君は僕の輝ける星」久々宮真名

 芸能マネージャーと子役出身の中堅俳優の幼なじみもの。二人は恋人同士だけど、受には攻に言えない不安があって……!? 読みやすい文体で三人称主人公視点を意識しているのが伝わってきました。
 一方で、構成が恋人同士の状態で始まり、過去の出会いから告白を振り返るのでお話が進んでいるようで進んでいません。攻は本当は自分のマネージャーではなく他のことをやりたかったのでは、と忖度して「マネージャーをやめてほしい」と言ってみたり、王道な展開だけに意外性もなくカタルシスが弱いです。
 また、主人公が俳優としてどうなりたい、などの展望がないため、俳優という職業の面白さが活かされておらずもったいないです。主演の仕事がほしいと思いつつも恋愛ものは避けたり、自ら行動を起こしてオーディションを受けたりしていないので主人公の本気度が伝わりません。主人公の願いである「攻のいちばんになりたい」というものがどういうことを指しているのか、具体性がなく曖昧な印象を受けます。まずは作品のテーマをはっきりさせることで、キャラクターとお話の構成もおのずと決まってくるかと思います。

「野良猫は夜明けに眠る」久保木りつ

 男娼として働くスナネコ獣人の主人公の周囲で起こった連続殺人事件。被害者の特徴は主人公と一致し、しかも全員が国の英雄と関係を持っていた――。事件の解決という大きな縦軸とともに、最初は犬猿の仲だった受と攻が次第に恋に落ちていく展開に引き込まれました。
 ただ序盤から掲げてあった「孤独を癒すために自分だけの家がほしい」という主人公の目的がどうなるのか、お話の最初と最後で変化が感じられませんでした。攻と恋する過程で「家(空間)がほしい」のではなく「自分を受け入れてくれる人がほしかった」と気づいたり、家を手に入れた後のさらなる生きる目標を見つけたりしないと、読者はカタルシスを得られません。恋愛感情以外に変化がないと、主人公が起こる出来事に振り回されるだけでお話が進んでしまいます。「家を手に入れる」というのは単なる手段であり、通過点です。その後主人公がどうなりたいと思っているのか。過去の応募作とも共通する心情描写の弱さにも繋がりますが、もっとキャラクターについて掘り下げ、どういう目的意識を持っているのか考えてみましょう。
 また、神視点寄りの硬い文体のままでは読者は主人公に感情移入できません。もっと一人称寄りの視点を意識してみてください。

「Casting Couch の憂鬱」幸里

 上司に枕営業をしてでもセレクトショップの店長の座に就きたい。それなのに、引き抜きでやってきた男があっさり奪っていってしまった――主人公が仕事をしている姿やその業種ならではの会話のやり取りなど、お仕事ものを書こうとした努力がきちんと作品に反映されていました。ただ、蘊蓄が長すぎるようにも感じたので、もっとバランスを意識してみましょう。
 肝心の恋愛の部分は起こる出来事に緩急がなく、メリハリが弱いです。当て馬の上司に絡まれることでしか二人の恋愛が進展せず、同じ展開が続くように思えてしまいます。 序盤は好感度の低い主人公なだけに、共感されやすい主人公の心情と、明確なテーマをきちんと設定しないと、このお話の続きを読み進めたいとは読者は思えません。また、恋愛を通して主人公のテーマが成就するのか、それもしっかり書きましょう。
 受視点の物語ではありますが、攻が受のどこを好きになったのかが見えてきませんでした。上記のテーマの設定とともにそれぞれのキャラクターを深掘りし、こういうキャラクターだから受を好きになったという説得力が出るように意識してみてください。

「冬に眠る、春を想う」栄つかさ

 母親からの虐待でトラウマを抱えた民族学者が、生贄として育った青年と出会い、初めて本当の愛を知る物語。主人公視点でストーリーが進み、読みやすい文章でした。ただ、マナ族の特殊な言語を主人公が話せることや生贄の青年が民族の中でただ一人金髪であるという重要な設定が地の文でさらっと語られ印象に残りにくく感じました。地の文で長々と説明するのではなく、エピソードにしっかり情報を組み込んで読者に印象付けないと、せっかくの設定が活かせません。
 メインの生贄設定も、生贄を捧げないと悪いことが起こるらしいというふんわりとした理由だけで具体的なエピソードもないので、現代まで儀式を固く守り続けていることの説得力が薄いように感じます。その上、主人公が生贄は文化だから仕方がないと諦め続け、最後は友人の言葉に押されて助けに動いているので、愛する人を助けたいという強い想いや成長が感じられず、読者の共感を得にくいと思います。
 生贄文化というユニークなアイデアをしっかりと練って、主人公がトラウマを乗り越え愛する人を命がけで救う――そんなテーマをドラマティックに描くことで、もっと読者の心を掴めるのではないかと思います。

「ベスト・アンサー」雫川サラ

 感情を匂いとして感知する「嗅覚能力者」である警察官の主人公。自ら制御することはできないが、実は相手の感情を操る「魅了」の能力も有していた。ある日、民間警備会社の敏腕エージェントであり「耐毒体質者」の攻と、薬の密売事件で協力することになり……!? 特殊能力によって感情の匂いがわかり、相手を操るという主人公の設定のアイデアが目新しくて面白かったです。
 一方で、特殊能力者がいるという世界観や主人公の年齢などの説明がないまま進んでしまうため、状況を把握するのに苦労しました。前回の総評であった、シーンの始めに5W1H(いつ・どこで・誰が・何を・なぜ・どうやって)を書くことをもっと意識してみてください。そうすることでより読者が物語に入り込みやすくなると思います。
 また前回の個別講評でもお伝えしましたが、まだ地の文が多く全体的に硬い印象を受けます。攻への想いを自覚する過程も地の文で書かれているので、いつの間にか恋に落ちていたように見えます。感情が大きく変化する重要なシーンは、ぜひエピソードで見せてください。事件についても同様に地の文での説明が多く、犯人の拠点への突入シーンや、そこでの戦闘シーンでも緊迫感や臨場感がまったく伝わってきません。ぜひたくさんのキャラ文庫を読んで地の文の量を分析してください。

「さよなら、テイクオーバーゾーン」すぐり

 オリンピックで金メダルを目指す陸上選手の受と、大企業御曹司でアルファの執着攻。過去に攻と発情事故を起こしてオメガになってしまった受が、攻の罪悪感を利用して抑制剤の代わりに関係を求める――。王道のオメガバース展開に一気に引き込まれました。
 一方で、三人称神視点で主人公に感情移入しづらい印象を受けました。さらに章ごとに視点が変わる構成は、キャラの区別化ができていないため、別視点で何度も同じエピソードが繰り返されるので冗長に感じます。
 例えば、発情事故についての描写は、設定や状況の説明が重複するばかりで、主人公の気持ちが見えません。まずは視点を主人公に統一することを意識してみましょう。そうすれば、オメガであることの苦悩や、攻への罪悪感と恋心の狭間で葛藤する想いなど、心情描写にもっと深みが増すはずです。主人公がこの物語を通してどのように変化する姿を描きたいか、情報を整理してエピソードやキャラクターの取捨選択から始めてみてください。

「神使様は配信者」相田翆

 子役だった過去を隠しゲーム配信をしているけれど、収益化は夢のまた夢――そんな主人公が一緒に活動をすることになった人気配信者は、実は幼い頃に助けた少年で、その正体は妖を祓う白蛇だった!? 前作よりさらに三人称主人公視点が意識されていて、オリジナリティのある展開に引き込まれました。
 これまでとは違う現代ファンタジーに挑戦した点もよかったですが、かえって共感性が低くなった印象です。酒癖が悪く主人公を殴る母親の元に弟一人を置いてあっさり家を出たり、弟もそれをすんなり受け入れる寛容さがあったりと、都合がよく思えてしまいます。ファンタジーなら許せる設定も、現代が舞台では通用しません。
 主人公の目的意識は前回から引き続き弱いです。「人気配信者になる話」なのか、「過去を乗り越え新たにやりたいことを見つける話」なのか、今回は特に主人公がどうなりたいのかが曖昧でした。起こる出来事に振り回されていただけの印象だったので、主人公のバックボーンを踏まえ何を目指しているキャラクターなのか、もっと深掘りしてみてください。
 また、これまでの3作共通してラブシーンがなかったので、次回はラブシーンにも挑戦してみましょう。

「きみとは頑張らない」南城アリス

 亡くなった母の身代わりとして父に抱かれる特別生の受と、生徒会副会長で寮監の先輩攻。思春期特有の透明感のあるキャラクターが、繊細な筆致で描かれており読み応えがありました。応募作2作それぞれ、異なるジャンルに挑戦する姿勢にも好感がもてます。
 しかし、全体的に主人公が状況に流されるだけでテーマが不在です。攻との距離を縮めていくエピソードも、万引き犯にされかけたところを庇われて……と、状況に対する反応でしかなく、もう少し本人同士が向き合った結果の恋、という納得感がほしかったです。
 クライマックスでは、父の秘書に犯されていた過去が明かされますが、攻との間に軋轢を生むための都合のいい展開に感じられました。さらに、父親にレイプされそうになったところを攻が救いにくる流れは、直接的な問題の解決になっておらず、ありきたりでその場しのぎな印象を受けます。「どこにも居場所がない」と感じていた主人公がどうすれば救われるのか、あらためて物語の軸を再考してみてください。

「Gペンと恋」野中にんぎょ

 同じ漫画賞を受賞しながらも、アシスタント止まりの主人公と、人気漫画家として活躍する攻。ひょんなきっかけから攻のアシスタントに入ることになり――という導入には王道ながら引き込まれました。攻に抱く、憧れと嫉妬が入り混じるヒリヒリした感情には共感しやすく、漫画を描いていく描写も丁寧でした。
 一方で、作中の漫画の設定や投稿作へのアドバイスがかなり具体的だったのに対し、恋愛シーンでのキャラぶれしたようなセリフの応酬に違和感がありました。また、「アシスタント生活だった主人公が、売れっ子漫画家になれるか」という大きなテーマがあるにも拘わらず、後半で「攻が水墨画をやるかどうか」というテーマが出現し、成り上がり的な変化を楽しむ部分の夾雑物になってしまっています。受と攻、どちらにも複雑な設定や背景が必要なわけではありません。最後の最後で主人公が攻の脇役になってしまわないように、「この物語に本当に必要なテーマは何か」を軸に、たくさん本を読んだりインプットを重ねて構成を練ってみてください。

「鎖骨先生は解釈ちがい」林り香

 人気BL漫画の世界に転移してしまったと思ったら、世界観もキャラも違っていて……!? という、王道の異世界転移ものかと思いきや、実は創作された架空の物語ではなく、その作品を描いた作家自身が過去に訪れていた“実在の世界”だった――というメタ的な仕掛けが、斬新で大変面白かったです。
 設定自体には勢いと面白みがあり、オリジナリティを感じました。一方で、地の文が非常に多い一人称で、登場人物の説明や感情描写が不足しているため、読者が状況を把握しづらく、物語への没入が難しい印象も受けました。
 また、「原作との差異を楽しむ」構造になっておらず、異世界ものとしての面白みが活かしきれていません。そもそも小説を書き慣れていない印象を受けましたので、まずはキャラクターの心の動きや背景を丁寧に描くこと、読者が自然と物語に入り込めるよう、シーンや展開を整理してみましょう。設定の強さは武器なので、読者と情報を共有する意識を持ちつつ、短くてもいいので“ひとつの感情”に絞ったお話をとにかくたくさん書く!、そして、たくさん読むことを頑張ってみてください。

「子育て魔王の初恋~ベビーシッターは勇者様?~」藤龍河

 母親に押し付けられた弟たちの世話と、魔王としての政務に追われる主人公。そんな彼に手を差し伸べたのは、魔王討伐に敗れた勇者で……!? という、立場のねじれとキャラ同士のコミカルな掛け合いが楽しいほのぼのファンタジー。まだまだ硬い神視点ではあるものの、前作より読みやすい文章を書こうと意識されている印象でした。
 ただ、「魔王と勇者」「子育て」といった魅力的な要素が十分に物語に活きておらず、設定止まりになってしまっている点が惜しいところ。魔王ならではの葛藤や、人間との対立構造も薄味で、勇者との恋愛もキャラクターの個性に基づく深まりが乏しい印象です。
 弟たちの存在も物語に大きく関わるわけではなく、子育てというテーマを掲げるにはやや説得力に欠けます。登場人物たちは魅力的ですが、それぞれの役割が物語にどう寄与するのか、もっと踏み込んで描かれていればグッと引き込まれたと思います。設定に頼るのではなく、「この世界・関係性でしか描けないドラマ」を意識して構成を組み立ててみてください。芯の通った物語になれば、キャラクターの魅力もさらに際立つはずです。

「〝運命〟じゃない僕らの運命」藤多

 オメガの主人公とベータの攻は、幼なじみで恋人同士。だけどいくら愛し合っていても、オメガとベータでは運命の番にはなれなくて……!? 三人称受視点に統一されていて文章も読みやすく、キャラクターの感情も伝わってきました。
 ですが、幼なじみで最初から恋人同士でベータ×オメガの設定だと、どうしても先の展開は読めてしまいます。オメガバース特有のアクシデント以外でメインになるストーリーがないので、他の同じ設定の作品との差別化が難しいです。
 また、大学生というのはモラトリアムでキャラクターにテーマを持たせにくい年齢でもあります。自由度があるとも言えますが、そのぶん主人公が物語を通して最終的にどうなりたいのか、核になるテーマが必要です。設定に寄りかかった物語作りのままでは、盛り上がりや起承転結のあるお話は書けません。
 さらに全体的に一文が長く、エピローグ部分で友人との会話に雑誌フォーマットの1P以上を割くなど、余計な会話や物語の締めと余韻に必要のないものも多かったので、本当に必要な文章かどうかを推敲してみてください。

「隣の塩むすび」みこ

 父親が再婚したことで家族に馴染めず、一人暮らしを始めた高校2年生の主人公。初めての一人暮らしで何もわからない主人公を、アパートのお隣さんである社会人の攻が優しく手助けしてくれる。その攻は、実は主人公が幼い頃に亡くなった兄の親友で……!? 三人称主人公視点に近い文章のため、キャラクターに共感しやすく読みやすかったです。
 けれど「お隣さんは亡くなった兄の親友だった」というオチひとつで構成されているため、展開が読めてしまいあっけない結末に感じます。攻の正体がわかった際に、「全部わかって優しくしてくれていたのか」とショックを受けることもなく、事実を素直に受け入れてしまったことも気になります。そこから攻との関係に葛藤したり、いまだに兄の死に後悔と自責の念に駆られる攻を救ってあげたりと、攻と一緒に兄の死を乗り越えハッピーエンドに至ることでもっと盛り上がったはずです。
 また、これだけシンプルな設定にも拘わらず、主人公が恋愛感情を自覚したところで終わるため、物足りない読後感です。読者が読み終わった後にどう感じるのかを考え、満足度の高い構成・展開になるように意識してみてください。

「孤独な王子は部族の青年の献身で愛を知る」緑虫

 王子である主人公が人質兼政略結婚のために帝国へ向かう途中、海に落ちて消息を絶ち、異国の部族に助けられる――という、王道ファンタジーを踏まえた溺愛ストーリー。助けた青年が皇帝ではなくその弟だったという種明かしには意外性がありました。
 「不遇な受が攻に見初められ愛される」構図は定番ゆえに根強い人気があり、一定層には刺さるかもしれません。ですが、言い換えれば「どこかで読んだ」印象が強く、キャラクターの個性や関係性の説得力に乏しいのが難点です。特に、神視点の硬い地の文で、感情や物語の温度が十分に伝わってきません。
 攻が受を拾ったところから物語が始まる=最初からある程度の好意があるうえ、主人公が受動的なまま進むため、恋愛成就のカタルシス感が弱く、終始予定調和の一本道になってしまっています。今後は、展開に合わせてキャラクターがどう揺れ動き、変化していくか――感情のグラデーションを丁寧に描くことを意識して構成を練ってみてください。それができれば、物語に一層深みが増していくはずです。

「僕たちは運命が怖い」水無月にいち

 アルファの両親の元に生まれたハイスペックな攻と、家族全員ベータで平凡な日常を送る受。ところが、ずっとベータだったはずの受が成長とともにオメガに変異してしまい……!? オメガバース+幼なじみもので、視点も統一されていて、文章も読みやすかったです。
 ただエピソードというよりは、小学生~大学生までの二人+当て馬を時系列に沿って書いているだけで、物語の核がどこにあたるのかがわかりませんでした。キャラクターの心情も伝わってはきたのですが、恋愛面での葛藤がオメガバース要素しかないので、この設定を抜いた時に核となる恋愛のエピソードが弱く、もったいないです。
 また小学1年生の出会いからスタートするものの、セリフや文体が子供の視点になっていないので、その後の成長過程で中学高校となっても二人の台詞回しにほぼ変化がなく、大人びたしゃべりの小学生に違和感がありました。主人公視点にするということは、そのキャラクターの年齢によって使う語彙や心情に影響を与えることもテクニックとして必要なので、意識してみてください。

「アンノウン・グレー」村井夕夏

 聴覚過敏により大学で浮いてしまい、ドロップアウトしてしまった主人公。不時着した宇宙人を母星に帰すためにロケットを作ろうとし、その中で人との関わりを持つことをもう一度頑張ろうとする。インパクトのある設定と、主人公の成長を書こうとしていることが伝わってきました。
 攻が鈍色の肌だったりテレパシーで会話したりと面白くはあったのですが、特に宇宙人らしい内面的な特徴や異文化交流がなかったので、今のままでは見た目以外は単なる外国人に近く、宇宙人であるということが活かせていません。また、唯一の帰る手段である大事な宇宙船を見張りもせずに放置して服を買いに行くなど、行き当たりばったりで都合のいいエピソードが目立ちました。
 前作の講評で「1シーンが短く説明不足」という指摘を受けたところを改善しようとする部分はとても見えたのですが、逆に冗長になってしまっています。長ければいいというわけではなく、必要な文章を必要なところに適切な分量で入れられるようになるといいと思います。

「空の端でひとりぼっち」森洲くるりん

 ワルキューレとして戦士の魂を導きたい――そのために奔走するも、男ゆえに拒絶され続けている主人公。唯一魂をくれると約束してくれた攻を見守るうちに惹かれ、触れ合いに夢中になっていく。同時に、「生きていてほしい」と思うようになり―――。
 「男なのにワルキューレ」という設定の着想自体は面白く、目新しさを感じました。一方で、設定がすべてになってしまっている部分もあります。この話において核となるのは、前半にある「戦士の魂を導きたい(=誰かの死を無意識に願っている、または何とも思っていない)」という目標への使命感と、後半に抱く「攻に生きていてほしい」という感情との折り合いをつける“過程”ではないでしょうか。命の概念が薄い主人公が人間と同じ痛みを知り、そのうえで攻に対する思いを変化させていかないと意味がありません。今作ではそこが描かれていないため、読後のカタルシスが薄くなってしまっています。
 また、最終的に攻を天上に連れてきても、地上での逢瀬と差異がなく、どこに向かう話なのかが不明瞭です。特殊な設定や世界観ならば、主人公の目標をもっとわかりやすいものにし、読者の共感性を意識してみてください。

※公平を期するため、第3回キャラ文庫小説大賞選考に関する問い合わせには一切応じられませんのでご了承ください。

受賞者続々デビュー!!

「第1回 キャラ文庫小説大賞」受賞3作 文庫化!!
大賞「監禁された朝、僕は親友を失った」鳴海しずく イラスト:yoco
優秀賞「天才画家になりそこなった友へ」七緒夕日 イラスト:笠井あゆみ
期待賞「オンエア終了、反省会をはじめます!」芹沢まの イラスト:みずかねりょう

「第2回 キャラ文庫小説大賞」佳作受賞作 雑誌『小説Chara vol.52』掲載!!
佳作「特別な君と普通の恋」野宮まち イラスト:夏江夢子